国際生物多様性の日2026シンポジウム:「地域の一歩が、世界を動かす」〜協働で実現する人と自然の共生〜
【開催報告】

写真:会場の模様
開催日時 2026年5月28日(木)
会場 国連大学エリザベス・ローズ国際会議場
共催 環境省、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)、GEOC、IGES
協力 公益財団法人イオン環境財団、国際自然保護連合日本委員会(IUCN-J)
後援 経団連自然保護協議会、2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)
参加者 事前登録200名、当日参加77名(対面のみ)

開催概要

本年の国際生物多様性の日の国際テーマ「地域の一歩が、世界を動かす」に沿い、また本年の生物多様性条約(CBD)COP17において昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)の世界的な進捗状況を評価する「グローバルレビュー」が実施されることを踏まえ、各地域での具体的な取組を加速し、社会全体の協働を通じて、国際目標につなげていくことが一層重要となっている。本シンポジウムでは、同枠組の2050年ビジョン「自然と共生する世界」の実現に向け、国際的な動向とともに、国や地域において多様な主体が連携して進めている取組を共有し、協働の力をどのように発揮させ、グローバルな目標へとつなげていくか議論した。

開会挨拶

石原宏高 環境大臣(ビデオメッセージ)

日本において、人は自然の一部であり、自然と共に生きるという考え方が暮らしや文化に受け継がれてきたことを紹介。この理念の下、生物多様性国家戦略の実施、地方自治体による地域戦略の策定・支援を通じた地域の特性を活かした取組展開、自然共生サイトの認定を通じた多様な主体の連携促進による30by30目標への取り組み等を紹介。本年10月のCOP17がGBFの初回グローバルレビューの機会となることを踏まえ、COP10議長国の経験を活かしたGBFの実施における国際社会との緊密な連携を表明した。

山口しのぶ UNU-IAS所長

生物多様性損失・気候変動・災害リスク・社会の分断という複合的危機に対し、全社会的な協働の必要性を強調。SATOYAMAイニシアティブの事務局としての役割やエクアドルで開催された第10回IPSI総会の成果、GEOC30周年、Global Youth MIDORI platformなどUNU-IASの活動を紹介した。

アストリッド・ショーメーカー CBD事務局長(書面メッセージ)

SATOYAMAイニシアティブ及び自然共生サイト促進の取組を、日本のリーダーシップ及び「地域の一歩が世界を動かす」代表例として評価。IPSI-10(SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ第10回定例会合)で採択された「実行可能な実施計画」(Actionable Implementation Plan)がnon-state actor commitmentとしてCBDに提出されたことを歓迎。7月の熊本におけるグローバル・ネイチャーポジティブ・サミットをネイチャーポジティブに向けた国際連携の促進の契機と指摘し、本シンポジウムによるCBD-COP17へ機運醸成、日本の更なる貢献を期待。

武内和彦 IGES理事長/東京大学特任教授/UNU-IAS客員教授(ビデオメッセージ)

武内氏が国連大学副学長に就任した2008年に開催した本国際生物多様性の日シンポジウムが今日まで継続開催できていることを大変嬉しく思う旨発言。2022年に採択された昆明モントリオール生物多様性枠組の達成状況は現状思わしくなく、生物多様性の損失の根本原因に着目し革新的活動の必要性を指摘。その鍵として、気候・汚染問題も含めた課題に対し相乗効果を発揮する「シナジーアプローチ」の必要性を訴え、IGESが作成中の「アジア太平洋シナジーレポート」の取組やIPBESの関連評価報告書を紹介。ビジネスの役割も強調し、熊本市のグローバルネイチャーポジティブサミットを重要な機会として挙げ、J-GBF会長代理としても本シンポジウムを通じビジネスのネイチャーポジティブが進展するよう議論が生まれることの期待を述べた。

基調講演

橋本禅 東京大学大学院農学生命科学研究科教授/UNU-IAS客員教授

IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)やWEF(世界経済フォーラム)の報告書を引用しつつ、近年(とりわけ1950年以降)の人間活動の拡大とともに生物多様性の損失がかつてなく進行しており、多くの生態系サービスが劣化している状況を概説。さらに、生物多様性損失の直接5大要因を挙げつつ、気候変動対策との相乗効果(シナジー)の重要性に触れ、さらに直接要因の背後にある間接的な損失要因(生産消費パターン、貿易、ガバナンス等)に働きかけていく必要があり、大きな社会変容が必要とされている旨解説した。GBFのターゲットに従来の自然保護施策にとどまらない広範な内容が含まれていることを挙げ、東京の食料自給率が1%未満、日本全体でも供給熱量の観点で60%以上を国外に依存している状況を一例にあげつつ、全省庁・全社会的アプローチの必要性を解説した。

藤田香 日経BP ESG フェロー兼、東北大学グリーン未来創造機構・大学院生命科学研究科 教授

ネイチャーポジティブ経済移行戦略や同戦略ロードマップを概観し、ネイチャーポジティブ経営を通じ企業価値向上につなげていくことに加え、バリューチェーンに加え地域一体となり「ランドスケープアプローチ」により地域価値の向上を同時実現していく考えが中核にある旨解説。TNFDにおいて、地域コミュニティとの対話や、直接操業地に限らず上流・下流を含めたバリューチェーン全体で見ていく考え方が、自然(ネイチャー)分野の開示枠組の特徴であると指摘。富山県・黒部川流域で企業・科学者・自治体・NGO・地域住民を巻き込んだ「黒部川流域ネイチャーポジティブプロジェクト」を紹介し、多様な主体が共通の認識を持ちながら取組を推進するための共通ビジョンの策定過程を共有した。また、規模の大きさによる課題とバイリンガル人材の不足を率直に語った。

橋本氏の基調講演の様子
藤田氏の基調講演の様子

情報提供

永田綾 環境省生物多様性主流化室長

昆明・モントリオール生物多様性枠組のグローバルレビューの実施と生物多様性国家戦略の中間評価、30by30に向けた地域戦略の意義・自然共生サイトの拡大、TNFDやネイチャーポジティブ経済移行戦略を通じた企業・金融の取組拡大等の政策概要を説明。さらに、企業と地域を結びつける「ネイチャーポジティブ経営推進プラットフォーム」や、民間セクターのOECM参画の参考となるガイドブックを検討し国際発信していく計画を紹介した。最後に、本年7月のグローバルネイチャーポジティブサミットin熊本への参画を呼びかけた。

事例発表

西麻衣子 日本大学生物資源科学部国際共生学科教授/UNU-IAS客員研究員

SATOYAMAイニシアティブとIPSI(計348団体)を紹介し、SEPLS(社会生態学的生産ランドスケープ・シースケープ)が地域の生計と生物多様性保全を両立できることを示した。また、同イニシアティブにおいて、藤田教授の講演にもあった「ランドスケープアプローチ」を推進しており、同アプローチを通じて地域に文脈に基づく戦略づくりを支援するガイドを公表する等の取組を紹介。IPSIの協働の好事例として「TPSI」(SATOYAMAイニシアティブ台湾パートナーシップ)の事例を紹介。

関根伸昭 横浜市みどり環境局戦略企画部戦略企画課長

緑地保全・河川再生・市民参加・企業連携を組み合わせた横浜市のネイチャーポジティブな都市づくりに資する各種施策を紹介。来年横浜市がホストする「Green Expo 2027」と「IPSI11」も紹介。自治体はネイチャーポジティブ実装の最前線であり、ローカルの実践を国際目標につなげ、ネイチャーポジティブの実現へ貢献する考えを示した。

酒井はるな Global Youth MIDORI platform 2025最優秀賞受賞者

オーストラリア・ベトナム・カンボジア・Global Youth MIDORI platformを通じたブラジルでの気候変動COP30への派遣を通じて国際経験をもとに、ユースの視点から環境・人権・経済の相互連関を説明。活動の意義と生活へのメリットを丁寧に説明することが市民を動かす鍵であること、また、小さくとも周囲を巻き込んだ活動を継続することで大きなインパクトが生まれることを強調した。

杉山泰彦 一般社団法人ねばのもり代表理事

県境を越えた流域の川上に位置する自治体(長野県根羽村)が、県単位での支援策等の受皿になりにくい等の課題を紹介し、根羽村の森林の恩恵を受ける流域全体での森林管理のための地域経済モデルの構築の取組「nebane」を紹介。自分事として捉えてもらうことが連携の鍵となることを指摘しつつ、自然共生サイトとしての登録や流域全体へのステークホルダーの拡大などの今後の展望についても触れた。

杉山氏の発表の様子

美鳥佳介 キリンホールディングス株式会社CSV戦略部チーフリサーチャー

生物多様性・水・気候・容器包装を統合的に扱うCSV戦略を紹介。スリランカでの紅茶生産における、マルチステークホルダーの連携によるサプライチェーン上流まで生態系調査や教育への貢献等の協働事例(コレクティブアクション)を紹介。現地への繰り返しの訪問等を通じた地道な関係構築の重要性を強調した。

パネルディスカッション

モデレーター星野智子氏(GEOC)のもと「多様なステークホルダーの参画を促した要因」と「インパクト拡大と共通ビジョンの伝え方」の2つの問いを中心に議論した。

前者の問いに対し、横浜市関根氏は関与度に応じた「ステージ別アプローチ」と「横浜みどり税」による安定財源等が広範な市民の長期参加を支えている旨回答。キリン美鳥氏は、サプライチェーン上流にさかのぼることの難しさを指摘しつつ、マルチステークホルダーの協働体制の構築に近道はなく、現場における泥臭い営業活動を行うことの大切さを挙げた。

後者の問いに対し、酒井氏は公的な資金的メカニズムが民間団体・企業の活動を促進する点を述べ、共通のビジョン構築のために、背景にある理由を市民が理解するための教育啓蒙が重要と指摘した。杉山氏は、上流と下流を結びつける有効な取り組みとして、上流側の自治体における下流の状況に順応的に対応できる柔軟な組織づくりの取組を紹介(環境省の地域循環共生圏モデル地域)。広範なインパクトを引き起こすうえで、スピードを重視するあまり一部の関係者に限られた成果とならないよう、誰も取り残さないような地道な関係者間の調整を通じたバランスが重要であると述べた。西氏は、大学教員としての立場から、国内の若い世代での里山・里海の認知度の低さを「逆説」として指摘し、社会あるいは企業内における関心が高くない方々の巻き込みを通じ関心層拡大の重要性を訴え、横浜市におけるIPSI-11等の機会を活用し幅広い層を巻き込んでいくことへの期待を示した。

橋本教授は、各事例を、地域を拠点とする多主体事例と、企業を中心としたサプライチェーン全体や地域のステークホルダーエンゲージメントとに類別しつつ、いずれもそれぞれの主体が共通のビジョンのもとで取り組んでいるという特徴を指摘し、愛着・共感の気持ち等も含めた「人と自然のつながりの再構築」を通じ、地域の皆がその地域を大事だと思う感情を引き起こし、その感情が行動に繋がっていったのではと解説した。藤田教授は、経済的アプローチの重要性に触れ、地域での生物多様性クレジット等の仕組みづくりを環境省も含めて考えていければと期待を示し、また泥臭いローカルな取り組みにおける俗人的な要素が否めないと指摘しつつ、それが面白い側面でもある旨述べた。また、ネイチャーポジティブサミットやIPSI-11等の会合にローカルな関係者が参加することが、国際的な文脈に触れるよい機会でもあり、教育の機会としても活用できる可能性を指摘した。

今後のコミットメントとして、美鳥氏はサプライチェーン全体でのネイチャーポジティブ実現にむけた関係者との連携強化、杉山氏は他地域へ波及するような根羽村での好事例をまず作ること、酒井氏はシンポジウム参加者同士の連携と若い世代による政策提言、関根氏は周辺自治体とも連携した生物多様性保全施策による課題解決や関係強化に向けた展望、そして西氏は多様な理解度や感受性をもつ学生達との交流や教育を通じた将来世代育成を表明した。

モデレーター星野氏はパネリストの議論を総括し、全社会的な協働と行動変容を呼びかけ、結びとした。

パネルディスカッションの様子その1
パネルディスカッションの様子その2

閉会挨拶

渡辺綱男 UNU-IAS客員リサーチフェロー

屋久島における議論を経て日本がCBD-COP10において提案した自然共生社会の考え方が愛知目標として世界目標に採択された経緯を振り返り、「地域の一歩が世界を動かす」事例として紹介した。愛知目標の後継目標である昆明・モントリオール生物枠組が生物多様性を「回復軌道に乗せる」いわゆるネイチャーポジティブという高い目標を掲げる今、私たちは厳しく進捗を問われる段階にあると指摘。SATOYAMAコンセプトを育んだ能登が2024年の震災・豪雨災害から復興途上にある現実にも触れ、多様な価値観を尊重しながら広範な関与のもとで共通ビジョンを構築していき、能登の一歩を世界目標の達成にも貢献していきたい旨述べた。そして、シンポジウム参加者がそれぞれの地域において活動し、それらがあわさって世界を動かす大きな力になっていくよう期待し、またUNU-IASも一歩を参加者とともに歩んでいく旨表明し、締めくくった。

渡辺氏による閉会挨拶の様子
写真:集合写真