都市生態系再生国際シンポジウムin金沢「金沢から考える 都市の緑と文化、人々のつながり」【開催報告】

写真:パネルディスカッションの模様
開催日時 2025年5月22日(木)
会場 金沢市文化ホール・大会議室
主催等 国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(UNU-IAS OUIK)
共催 金沢市、環境省
参加者 140名
費用 参加無料

シンポジウム概要

都市が進化を続けるなかで、自然、文化、そしてコミュニティのつながりは、都市のアイデンティティをかたちづくり、持続可能な未来への道を拓く重要な要素です。今回、UNEP(国連環境計画)の「世代間環境回復プロジェクト(Generation Restoration Project)」において都市生態系再生モデル都市に選定された金沢を舞台に、地域住民の参画や文化的資源を生かした都市生態系の再生について、国内外の専門家やモデル都市・パイロット都市の代表が意見を交わしました。

写真:イベントの模様

自然の再生は単なる緑地整備にとどまらず、文化や暮らしと結びついた包括的な取り組みであり、市民の関与によってこそ、都市の日常空間に息づいていくものです。自然を活用した解決策(Nature-based Solutions)に注目し、多様な都市の経験を共有しながら、活気と持続性を備えた都市づくりに向けた新たなアクションを共有し共に考えました。

シンポジウムには村山卓金沢市長も駆けつけ開会の挨拶の後、第一部の基調講演が始まりました。ユリア・ルブレバさんが(国際連合環境計画(UNEP)都市自然、アソシエイトプログラムオフィサーが「人と地球のための都市自然:生態系の再生とコミュニティの再構築」というテーマで、イングリッド・コッツィー(持続可能な都市と地域をめざす自治体協議会(イクレイ)アフリカ事務局 自治体生物多様性・自然・健康担当ディレクター)さんが「都市のウェルビーイングとレジリエンス、そして人と人をつなぐ自然の力」というテーマで、環境省生物多様性戦略推進室長の鈴木渉が「自然共生社会の実現に向けた都市の役割」というテーマで基調講演を行いました。
第二部のパネルディスカッションでは、「文化と自然から考えるコミュニティ主導の都市再生:世界の視点から」のテーマでモデレーターに内田 東吾(持続可能な都市と地域をめざす自治体協議会(イクレイ)日本事務局長)、パネリストにUNEP(国連環境計画)の「世代間環境回復プロジェクト(Generation Restoration Project)」モデル都市、パイロット都市の代表を迎え、文化や市民参画が自然再生をどう支えるかを議論し、持続可能な都市のあり方を共に考えました。
最後に、山口しのぶ(国連大学サステイナビリティ高等研究所 所長)が参加者や登壇者への感謝と共に、日本としてGBFの達成に力強く貢献していきたいとの挨拶が行われ閉会となりました。

第一部 基調講演要旨

国際連合環境計画(UNEP)都市自然、アソシエイトプログラムオフィサー
ユリア・ルブレバ氏

  • テーマ「人と地球のための都市自然:生態系の再生とコミュニティの再構築」
  • 2016年から2050年の間に、世界で約1,476万平方キロメートルの自然生息地が都市開発によって失われると予測されている。
  • 都市やその周辺における自然は贅沢品ではなく、気候変動への強さ、公衆衛生、そして地域の暮らしの基盤。
  • 自然が都市にもたらす利益は様々。防災、空気の質の改善、精神衛生など
  • 持続的で効果的な生態系の再生には、地域コミュニティの主体的な関与と参加が不可欠。
  • 都市住民は、環境の恩恵を受けるだけの存在ではなく、生態系の担い手でもある。
  • 世代間環境回復コミュニティの取り組みは、単に木を植えることではなく、信頼、レジリエンス、そして希望を再生することでもあり、変わりゆく世界の中で地域社会を支える力を持つ生態系にこそ投資すべき。
写真:ユリア・ルブレバ氏による基調講演

持続可能な都市と地域をめざす自治体協議会(イクレイ)アフリカ事務局 自治体生物多様性・自然・健康担当ディレクター
イングリッド・コッツィー氏

  • テーマ「都市のウェルビーイングとレジリエンス、そして人と人をつなぐ自然の力」
  • 2050年までに世界人口の70%が都市に住むと予測、その都市が世界の資源の75%以上を消費。
  • 自然は人間の精神的および身体的健康に貢献。
  • 自然ベースの解決策は、都市の災害リスクの軽減、食料安全保障など、コミュニティの体制に役立つ。
  • 自然と調和した都市をデザイン、グリーンインフラ、ブルーインフラ。
  • 更なる都市自然への投資が必要。
写真:イングリッド・コッツィー氏による基調講演

環境省自然環境局自然環境計画課生物多様性戦略推進室 室長
鈴木 渉

  • テーマ「自然共生社会の実現に向けた都市の役割」
  • 生物多様性は2010年COP、2012年SDGやパリ協定から大きな動きがあった。
  • 2019~2021年には、政府に政策提言をするように求めるなど、政治も関わるようになってきた。日本でも国家戦略が策定され、これに基づいて今動いている。
  • 持続可能な資源の利用、どう資源を配分するか、自然を活用した解決策。自然と付き合いながら、自然の恵みを増やしていく。緑地を増やしていく。金沢市は自然との付き合い方がうまく、これがUNEPの都市生態系再生モデル都市に認定された1つの理由では
  • 経済や社会の参加も主流化してきており、政策や開発プロセスに組み込ませる。日本は世界の中を見ても、多くの企業が開示に参加している。
  • それ以外にも、女性、子ども、障がい者、先住民や地域社会が意思決定への参加の確保の重要。
  • tipping point転換期にはすでに入っている部分があるのではないか、緑の保全・再生、気候変動対策、持続可能な生産、消費の抑制、同時に進めないといけない。生物多様性は改善しない。
  • 世界の枠組みを、国家戦略へ、国家戦略を地域戦略へ、地域でミッションを実行し、情報発信をしていく。
写真:鈴木渉による基調講演

第二部 各都市紹介及びパネルディスカッション要旨

各都市紹介

イスタンブール(トルコ)

「Yaban Istanbul=wild Istanbul」2019年に設定した再野生化戦略。単なる政策ではなくリブランディングで、生物、植物と人の共生を目的としている。2020年、市の重要な自然保護地区で、給水器、ボスポラス林、都市森林の保全計画を開始。インベントリー、都市野生動物、巨木や自然観察学習などの取り組みもここ5年継続している。地域の参加が重要であり、自然探検活動や自然探偵活動を通して、市民と自然とのかかわりの機会を作っている。この市のブランディング戦略は、地域の信頼と参画により強化される。

シアトル(アメリカ)

市は水に囲まれていて、これを保全するのは重要であると考えている。政府のみではなく、金沢がしているように地域をインスパイアすれば自然回復の大きな力になる。100コミュニティボランティアが、自然回復のために活動している。人は地球(土、野菜を育てる)に触れることが好きである。コミュニティの場のモデルとして公園の改善もしている。

パリ(フランス)

自然と建築の関係。パリのシティホールはユネスコに登録されており、オリンピックなどの文化の場所でもある。最近、市長が市役所の広場を緑のシンボルとなるように変更し、300本以上の植樹に加え、新たに緑地を増やしている。公共の場にもっと緑を増やすために、人々に投票させ、駐車場を50%減らす、校庭への緑をふやすことを決定した。校庭は子どもへのワークショップを開催し、どのような校庭がいいか子どもから案を保護者や大人へ提案、一緒に校庭を作り、整備もする。

トロント(カナダ)

先住民との和解を通した生物多様性の回復。トロントは昔から先住民が居住している場所であり、豊かな生物多様性を持つ都市である。先住民と移住者の関係は常に良いものではなかったが、協力、共同開発、対等なパートナーシップ、パワーシフトに根ざした関係を強化している。和解のために協力、脱植民地化のアプローチをしている。ハイパークで生態系管理のために先住民の伝統的な火入れ、先住民の知識を学んでいる。先住民との関係づくりが重要で、学びともに協力していくことが重要である。

メキシコシティ(メキシコ)

メキシコシティは内陸に位置、メキシコ国内では12%、世界全体では2%の生物多様性をもつ。大きな市であるメキシコシティでは課題もあり、その解決のためには市民の参加が不可欠である。アルテペトルプログラムは、自然と共生する農業のために消防士が参加、グリーンインフラネットワーク特別プログラムは保護地区の植林による保護。その他、ネットワーク、女性、地域による都市自然の整備や保護。

キスム(ケニア)

アフリカ最大のビクトリア湖がある。人々はこの湖に頼っているが汚染が進んでいる。コミュニティ主導の回復活動を開始しており、河川の再生、統合的な廃棄物管理、樹木の苗木育成を含む「キスム緑化計画」が行われている。都市公園の再生、街路樹の植樹や埋め立て地の公園化はコミュニティの参加によって成功した。湖の保全や回復は最重要課題である。

金沢市(日本)

金沢城を中心に自然が広がっており、400年以上にわたって戦争にあうことがなく、古い街並みや文化を継続することができた。生態系保全に貢献してきたのは、庭園群。庭園は回廊のように広がっている。金沢は庭園の魅力や価値を効果的な推進プランとして取り組み強化してきた。300年前からある用水を取り入れた庭園がある、文化を継承してきた。生き物の住処にもなった。町の歴史や伝統文化に育まれ、地域によって支えられてきた。課題は手入れ。人の手、体力的、金銭的な負担が多い。庭園の所有者のみでは困難。市のパートナー、国連大学と進めている。成果やノウハウを共有していきたい。

金沢市(日本)

文化の再生、伝統的知識の記録とブックレットやユースを通じて発信。市民参加で公園の整備をする。自然の回復、金沢市コンパクトシティ形成計画を推進しており、コミュニティの参加で都市自然の回復が可能であることを示している。コミュニティの再生、ボトムアップを促進し、自然とのつながりを通じて、ウェルビーイングを育む。

ディスカッションセッション

1.金沢を2日間見てきた印象は?

イスタンブール:用水について印象的であった。持ち帰りたい。
トロント:木の活動やユースの自然保護活動の参加、蛍の活動に魅了された。
シアトル:自然の美しさについて、金沢の人は誇りを持っていい。年配の方は価値を知っていて、若者はそれを聞いている。
パリ:課題解決にはスピード感をもって対応しているが、市民の同意が必要である。金沢は歴史があり時間をかけられている。
ケニア:小さいイニシアチブが大きな違いを作る。市民のしつけが地域をきれいに保っている。
メキシコシティ:川とコミュニティの関係が印象的。
金沢市池田さん:海外からの評価から気づきがあり、また継続して守っていきたいと思えた。
金沢市ファンさん:今回いろんな都市が集まったが、共通認識がありつつ、多くを学ぶ機会になった。

写真:パネルディスカッションの模様
2.現在の各都市の課題と解決策

イスタンブール:食料安全保障、健康、食糧供給など課題は様々。トップダウンのポリシーメイキングは重要だが、コミュニティとつながることも重要。
トロント:気候変動、猛暑、洪水など様々。ブルー、グリーン、グレーやパープルインフラなどバランスよく活動していきたい。
シアトル:自然や環境について、各都市同じようなことを話した。常に変わっていくことを認識し適応していかなければならない。
パリ:農業に課題がある。オーガニックに変えていく。
ケニア:湖は汚染されているが5か国が使用している。国内外で協力していかないといけない。
メキシコシティ:資金はいつも簡単ではなく、サポートをいつも探している。
金沢市池田さん:ゲリラ豪雨、極端な雨、日本の課題。庭、兼六園の広大な池。治水。個人にも池がある、水量調節機能。結果として解決策の1つになっている。その視点を都市計画の中にいれていく。
金沢市ファンさん:都市自然について政治レベルで話す必要がある。自然ベースの解決で雇用の創出も可能。