ポスト2020生物多様性枠組みへの日本の貢献~UNDB-J主流化事例からのバトンパス【開催報告】
開催日時 | 2021年11月17日(水)9:00~11:00(日本時間) |
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会場 | オンライン開催 |
主催等 | 主催/環境省、2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)、共催/CBD事務局 |
参加者 | 246名 |
費用 | 参加無料 |
私たちの暮らしを支える生物多様性。生物多様性をプラスにもたらす社会を指し示す世界目標を決定する国連会議が、2022年5月に中国で開催されます。世界目標には、あらゆる社会の参画が必要です。国連生物多様性の10年を生み、けん引してきた日本の事例を基に、あるべき世界目標について議論しました。
オンライン開催の模様は、こちらの環境省YouTubeチャンネルでご覧いただけます。
ぜひ、ご視聴ください。
開会あいさつ
エリザベス・ムレマ氏(生物多様性条約事務局長)
2011年から2020年にかけて展開された「国連生物多様性の10年(United Nations Decade on Biodiversity 2011-2020=UNDB)」は、日本の市民団体の提案を受け、日本政府から生物多様性条約への発案であり、生物多様性条約第10回締約国会議の決定として、国連総会を動かした日本のリーダーシップを称賛しました。市民を含む多様なステークホルダーの行動を変え、国連機関も生物多様性の10年に呼応した取組が生まれ、発案者の日本も、生物多様性の10年のための組織、国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB-J)を作り、毎回の締約国会議で日本の取組を世界に発信するなど、その後も日本が世界をけん引したことを強調。残念ながら、多くの成果を出したものの愛知目標の達成はなりませんでしたが、生物多様性の主流化は引き続き重要課題であるとの認識を示し、そのけん引役のモデルケースとして引き続き日本の活躍に期待し、生物多様性の損失のカーブを上向きに転換する取組を共に歩み続けたいとのメッセージが寄せられました。
奥田 直久氏(環境省自然環境局長)
共催団体に開催に向けての努力に謝意を示しつつ、生物多様性条約、気候変動枠組み条約でも、自然に根差した解決策に注目が高まっていることを紹介しました。国連生物多様性の10年日本委員会の活動や、その後継組織の設立、ポスト2020枠組み、OECM、ビジネスにおける主流化や行動変容に注力していく決意が示されました。
本イベントが、人と自然の共生に向けた社会変革(トランスフォーマティブチェンジ)のきっかけとなることを祈念するとのあいさつが述べられました。
第1部 各取組の紹介
UNDB、CEPAの取組/デイビット・アインズワース氏(生物多様性条約事務局)
2011年からの10年の取組について、2020年までに人々が生物多様性の意識と行動を高めることの重要性を強調し、①30万人が参加するプラットフォームやSNSでの情報発信、②様々な人々とのコミュニケーション、③戦略的な計画に対する支援などについて発表しました。
成果として、2010年代から人々の生物多様性への意識が高まり、様々な経済セクターが持続可能な開発・消費へと転換し、主流化に動き出していること、若者の意識が高まり、活動が活発化していることを強調しました。
また、世界水族館動物園協会の調査でわかるように、教育によって意識が高まることも明らかになりました。現在は、生物多様性10年の結果、新しい取り組みメッセージを作っており、今後の課題として、様々な関連分野について、人々の意識をさらに高め、「行動が必要だ」という認識を高める必要があることが挙げられました。
UNDB-Jおよび日本政府の取組/谷貝 雄三氏(環境省)
UNDB-Jの取組として、①普及啓発活動(MY行動宣言、生物多様性の本箱、連携事業の認定、全国・地域フォーラムの開催など)②広報(著名人や、ゆるキャラ、マガジンによる発信)③民間参画ガイドラインの策定・改定、④中間評価とロードマップの作成などについて発表しました。
成果としては、MY行動宣言では約26万人の方が賛同したことなどが報告されました。全体的な評価としては、世界評価では、愛知目標20個のうち6個を部分的に達成し、国内評価としては、国内戦略13個のうち5個が部分的に達成したことが挙げられました。しかし、取組の効果への定量的な目標設定、評価、進捗管理の不十分さが課題として指摘されています。
これからの活動として、2030生物多様性枠組実現日本会議(J‐GBF)を設置し、ビジネス、行動変容、地域連携を促進するための下部組織を設け、主流化に向けた具体的取組を計画していることが紹介されました。
ビジネス界の取組/長谷川 雅巳氏(経団連自然保護協議会)
①経済界を中心とした啓発活動(経団連生物多様性宣言・行動指針、経団連生物多様性宣言イニシアチブ、生物多様性ビジネス貢献プロジェクト、生物多様性民間参画パートナーシップ、②経団連自然保護基金を通じた支援、③経済界が生物多様性に取り組みやすい環境整備を実施(ポスト2020生物多様性枠組ワーキンググループ、TNFDへの参画、生物多様性民間参画ガイドラインの改定への対応)を発表しました。
成果として、経団連生物多様性宣言イニシアチブには、246企業が賛同し、生物多様性民間参画パートナーシップには、490の団体が参加したと報告しました。また、2009年から2019年の10年間の進捗アンケートを実施し、経営理念に生物多様性を盛り込んでいる企業が39%から75%、行動指針・ガイドライン等を策定している企業が25%から58%、生物多様性に関する情報公開をしている企業が38%から74%に増加したことが判明しました。経団連自然保護基金では、アジア・太平洋を中心に過去28年で44億円の支援を実施することができました。
今後の課題として、経営層からの発信が5割弱にとどまっているため、経営層からの発信を促進していく必要があり、今後も引き続き3本柱の取組を継続していく予定であることが紹介されました。
地方自治体の取組/杉本 安信氏(愛知県)
愛知県では、①県独自の「あいち生物多様性戦略2020」、②生態系ネットワーク協議会を通じた連携した活動を実施、③知目標達成に向けた国際先進広域自治体連合を設立、④あいち・なごや生物多様性expo開催(生物多様性2020あいち・なごや宣言、優良事例の選定)等について発表され、②の活動においては280以上の団体が参加し、180を超える自治体が署名したエジンバラ宣言にも貢献したことなどが成果として挙げられました。
現在はあいち生物多様性戦略2030を、企業やユースを巻き込んで、次の10年にむけて策定していることが紹介されました。
地方自治体の取組/森 匡司氏(名古屋市)
①なごや生物多様性センターやなごや西部多様性保全活動協議会の設置、②なごや環境大学というネットワークの構築、③生物多様性自治体ネットワークで代表を務めたことが発表されました。
成果として、名古屋市がフェアトレードタウンの認定を受けたこと、イベントや講演会等が活発に行われるようになったこと等があげられました。今後もこれらの活動を継続していくと述べられました。
ユースの取組/吉川 愛梨沙氏(生物多様性わかものネットワーク)
取組について、①若者への普及啓発活動(みんなでエコラボ)、②ネットワークの構築(生物多様性わかもの白書、トーク会職業編)、③政策提言の活動(国際政策提言勉強会、小泉前環境大臣への提言、GYBNとのイベント実施)が挙げられました。
課題として、生物多様性の認知度は上がっているが、「愛知目標」という言葉の認知度は5割以下であること、生物多様性の保全に携わる人手不足の顕在化を指摘しました。
海外におけるCEPAの取組事例/鈴木 渉氏
取組として、①日本生物多様性基金による支援(カルタヘナ議定書、Eco-DRR等)、②SATOYAMAイニシアティブ、③地域ワークショップ、③パイロットプロジェクト等について発表があり、数多くの能力養成事業が日本基金からの支援で行われたことが示されました。
課題としては、生物多様性国家戦略の策定・実施が不十分であることが挙げられました。これからの取組として、2030年に向けて日本基金に新たな支援額が日本政府から充当され、継続的な支援の計画があることが紹介されました。
第2部 パネルディスカッション
コーディネーターとして、涌井史郎氏(国連生物多様性の10年日本委員会委員長代理)から、過去10年の成果を次の10年に引き渡すことの重要性が指摘され、そのための成果と課題について、より議論を深めたいとの趣旨説明が行われました。
涌井氏により、「UNDBの10年間を振り返って残された課題は何か」という題が提示され、以下のような意見が出されました。
企業内での主流化/経団連自然保護協議会 長谷川氏
生物多様性と事業の関係を把握する必要がある。そのために、トップの大きなコミットメントと消費者の理解、モチベーションを持たせるような環境整備が必要であると強調しました。
行動変容/愛知県 杉本氏
関心はあっても、行動に移せていない人が多く、行動変容が課題である。新たな戦略において、主流化の加速を柱に位置付け取り組んでいく。日常の行動で生態系サービスの恩恵を受けているという認識から、行動変容が起きていく可能性を強調しました。
仕組みづくり/名古屋市 森氏
普及啓発の重要性は認識しつつも、それだけでは限界があることから、関心がなくても生物多様性に配慮した行動ができる仕組みづくりが必要である。現在では、普及啓発の取組から一歩踏み込んで、街づくりとして実施していく取組を行っているとの事例を紹介しました。
危機の自分事化/わかものネット 吉川氏
気候変動と比較して、生物多様性は課題を認識しづらく、主流化が進んでいないという課題がある。それに対し「いかに自分事化するか」が重要であると述べました。具体的な策として、他分野との協力が挙げられました。
環境省 谷貝氏
国からの反省点として、わかりやすい目標・指標をしめせなかったことが挙げられました。PDCAという観点からもモニタリングの強化をしていく必要があるとの認識が示されました。
生物多様性条約事務局 デビット氏
「認識と行動」、「モニタリング」が重要であると示しました。次期枠組みを成り立たせるためにも、モニタリングを進めるためにも、枠組みについての意見交換を重ね、自分事化するなどにより、実施への参画(エンゲージメントを広げる重要性)を強調しました。
次に、「課題を踏まえ、次期枠組みを確実に達成するために何が必要となるか。」という題が提示され、以下のような、意見が出されました。
ミヤル化(見える化・やる気化)/経団連自然保護協議会 長谷川氏
努力の指標を作ることや、行動に対して得られる効果を示すことでやる気を起こすことの重要性が指摘されました。
わかものと企業の力を活用/愛知県 杉本氏
市民団体や専門家は十分に力を出してくれているため、若者の発想力・行動力・発信力、企業の組織力・持続力を持つ若者と企業の力を活用することで、次の枠組みを達成するために力を借りたいとの意見が寄せられました。
役割分担・分業化/名古屋市 森氏
求められることが増える中で、残された時間が短いことが課題であり、限られた資源の中で取組をスピードアップさせるために、役割分担をして効率よく進めていく必要があるとの認識を述べました。
生物多様性保全以外の分野からのアプローチ/生物多様性わかものネット 吉川氏
各セクターにおける得意分野を活用して、生物多様性の分野から他の分野へと広げていくことが重要であると述べました。ユースの役割は、他の若者へ発信していくことであると強調しました。
生物多様性条約事務局 鈴木氏
日本基金の支援の中で、ユースの取組が一番伸びしろがあり、COP10に結成されたGYBNは今では存在感が大きくなっており、ユースの活動に期待している。新型コロナウイルス感染拡大で頓挫してしまったが、生物多様性ユースサミットを日本で開催できるとうれしいとのアイデアが提示されました。
環境省 谷貝氏
ポスト2020枠組みの検討と共に生物多様性国家戦略の見直しの動きを紹介しつつ、「自然保護エリアの拡大」「企業への主流化」「市民の行動変容」を進めていきたいとの決意が改めて述べられ、今回のイベントで得られた学びを引き継いでいきたいと強調されました。
涌井コーディネーターからは、UNDB-Jの成果は、他国と比較しても先駆的なものがあり、それが本日のパネルディスカッションでも明らかにされたことを強調されました。後継組織のさらなる活動の飛躍への期待を述べて、パネルディスカッションをまとめました。
閉会あいさつ
武内 和彦氏 2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)会長代理
UNDB-Jの主流化の取組の重要性を再認識するとともに、陸域海域の30%の保全(30by30)やビジネスへの主流化、行動変容など、引き続き多様なセクターの参画と連携が重要として、この取組をJ-GBFへのバトンとして引き継いでいくとの考えを示し、主催者、登壇者、視聴者への御礼を述べ、閉会のあいさつを行いました。