2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF) 第五回地域連携フォーラム【開催報告】

開催日時 令和7年11月27日(木)15:00~17:00
会場 オンライン会議システム(公開)
主催 2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)
参加者 約130名

オンライン開催の模様は、こちらの環境省YouTubeチャンネルでご覧いただけます。
ぜひ、ご視聴ください。

  • J-GBF 第五回地域連携フォーラム(YouTube動画)※後日配信

開会挨拶

環境省 自然環境局 自然環境計画課 課長 西村 学

  • はじめに、本フォーラムの開催にあたり、イクレイ日本様、生物多様性自治体ネットワーク様には、多大なるご協力を賜りまして厚く御礼を申し上げる。また、名古屋市様、徳島県様、栗山町様をはじめ、それぞれの自治体と連携いただいている企業・団体の皆さまには、大変お忙しい中、ご登壇いただき、心より感謝を申し上げる。
  • この地域連携フォーラムは、自治体間の情報共有のため、行政担当者向けとして始まったが、ここ数年は、企業からの参加者が半数以上となっている。自然共生サイトの認定など、企業の皆さんがその地域に貢献したいとの思いをもって、自治体との連携を意識されているということの現れだ。
  • 今回は、自治体の戦略やビジョンが起点となり、企業や関係団体等と連携した事例をご紹介いただき、パネルディスカッションでは、官民連携の取組が始まったきっかけなど、具体的に掘り下げていきたい。
写真:開会挨拶をする環境省西村課長

名古屋市 環境局 環境企画部長 平野 恵嗣氏
(代読 西原 大輔氏)

  • 生物多様性自治体ネットワークは、2010年愛知県名古屋市で開催されたCOP10をきっかけに設立され、現在、国内202の自治体が加盟している。
  • ネイチャーポジティブ実現のためには、国だけでなく自治体、企業、教育機関、民間団体などあらゆる主体が参加し、連携・協力が必要。取組みの旗振り役となる自治体の役割は非常に重要である。
  • また、今年7月ネイチャーポジティブ経済移行戦略に基づき、企業価値と地域価値向上の同時実現の視点などを盛り込んだ2030年までのロードマップが公表された。これに基づき、各主体が連携してネイチャーポジティブに向けて取り組みを推進していく必要がある。
  • 本日のフォーラムが、新たな交流や気づきのきっかけとなり、ネイチャーポジティブの実現に向けた着実な一歩となることを願っている。
写真:平野部長の開会挨拶を代読する名古屋市西原氏

情報共有

環境省 自然環境計画課 生物多様性主流化室 室長補佐 細田 容子
「ネイチャーポジティブの取組について」

  • JBO4(Japan Biodiversity Outlook 4)に向けた中間提言が報道発表された。
  • ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップを、「いつまでに、何をすべきか」の全体像を具体化することを目的に作成した。国の施策を主軸としつつ、企業・金融機関を含むステークホルダーに期待するアクションを整理したものである。
  • ネイチャーポジティブ経済移行後の状態の絵姿をお示しする。地域が保有する自然資本の価値が、企業等のステークホルダーに評価され、生物多様性地域戦略等の計画が企業等との対話において機能し、その結果として地域における自然資本の保全と経済循環が生まれることを期待している。
  • 水資源の保全・持続可能な利用、ウォーターポジティブに関する報告をお示しする。那須野が原における企業等によるウォーターポジティブな取組を経済価値として整理したものである。取組を実施した場合に新たに発生する価値を試算した結果、1年程度で最大約1,200億円と評価された。
  • 今年度実施している「ネイチャーポジティブな地域づくり支援モデル事業~ランドスケープアプローチの実践~」について報告する。①企業価値の向上、②地域価値の向上に貢献できるネイチャーポジティブな地域づくりに取り組む地域を支援させていただく事業を行っている。
写真:情報共有する環境省細田室長補佐

環境省 自然環境計画課 地域ネイチャーポジティブ推進室 室長補佐 桝 厚生
「30by30を核としたネイチャーポジティブ」

  • 2030年までに陸域・海域のそれぞれ30%を保全するという30by30目標の達成に向けて様々な取組を行っている。この1年の一番のニュースは、9月に「地域生物多様性増進法」に基づく自然共生サイトが201か所認定されたことである。
  • 「地域生物多様性増進法」は、本年4月に施行され、環境省だけでなく、国土交通省、農林水産省の3省共管で、自然共生サイトも各省連携の制度となった。生物多様性が豊かな場所を維持することに加え、生物多様性を回復・創出する活動も対象となった。自然共生サイトの合計は、448か所となっている。企業からの申請が半数以上である。
  • もう1つの大きなトピックとして、「生物多様性見える化システム」を紹介する。自然共生サイトや保護地域などの、生物多様性に関する現状や保全の取組等を1つのWEBページで集約している。
  • 自然共生サイトの支援に対するインセンティブとして支援証明書を発行している。11月に本格版の支援証明書発行を発表した。12月1日から2回目の支援証明書の申請を受け付ける。
  • これに加え、企業版ふるさと納税を活用した寄付金が「自然共生サイト」の活動に対して支出されたことが確認できれば、企業は環境省の「支援証明書」の対象とすることとした。
  • 以上、最近の動きを中心として紹介した。
写真:情報共有する環境省枡補佐

一般社団法人イクレイ日本 事務局長 内田 東吾氏
「2030ネイチャーポジティブに向けた国際的な動きと自治体」

  • イクレイは自治体の世界的ネットワークで、現在2,500以上の自治体が参加している。
  • イクレイ日本の生物多様性条約(CBD)との関係においては、COPでCBDとともに「生物多様性自治体サミット」を公式イベントとして、企画・開催している。また、生物多様性条約事務局(SCBD)における自治体窓口を担っており、条約に関連する取組に広く関わっている。
  • 生物多様性のみならず、気候変動枠組条約(UNFCCC)や国連環境計画(UNEP)などの国際的な会合の場で自治体を代表して様々な活動をしている。
  • 生物多様性条約については、来年アルメニアで開催されるCOP17は、「昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)」の目標に対する進捗を確認する場となる。国の一部をなす自治体が国際的な課題に対してどのように貢献出来ているか、どういった点が難しいのかを発信していく。
  • Cities With Nature / Regions With Natureは、イクレイが生物多様性条約事務局と開設しているプラットフォームで、今後、自治体の活動がとりまとめられてCOP17で発信される予定である。
  • 日本のみならず世界の自治体の課題感と希望を共有させていただきたい。生物多様性は、色々な部局との連携が求められる中でそれを実現するのは難しい。慢性的な資金不足があり、専門性を求められる分野でもあるので人材への対応が難しいという声が世界共通で聞かれている。
  • 一方、希望としては、生物多様性の改善は、そもそも自治体が取り組んでいる活動と相性が良いという特徴がある。子育て環境の改善、地産地消・旬産旬消、伝統文化・産業などが密接に関わるので、結果的に生物多様性の保全・改善につながる取組をすでに実施している事が多い。意識的に生物多様性に貢献しているという形で取り組む事、地域資源を基盤にした企業や団体などとの連携活動が重要である。
  • この地域連携フォーラムは民間の方々が多く参加しており、民間企業との連携を進めていかなくてはいけないということを強調したい。
  • また、日本には豊富な事例があるが、世界にあまり知られていない。この状況を踏まえ、IUCN-Jや日経BP社と協力し、2026年7月14日・15日に第2回グローバルネイチャーポジティブサミットを熊本市で開催する予定である。
写真:情報共有するイクレイ日本内田氏

事例紹介

(1)「なごやネイチャーポジティブパートナーによる生物多様性の取組について」
名古屋市 環境局 環境企画部 担当課長 蟹江 敦夫氏
山崎製パン株式会社 総務本部 総務部 環境対策課 清水 祥子氏

名古屋市 環境局 環境企画部 担当課長 蟹江 敦夫氏
  • 昨年、環境省主催のマッチングイベントにおいて、本市の自然共生サイト「なごや東山の森」を紹介した。その後、山崎製パン様からお声がけをいただき、「なごや東山の森」に対して支援いただくことになった。本日はその事例を含め、「なごやネイチャーポジティブパートナー」による生物多様性の取組について紹介する。
  • 本市では、2030年を目標とした実行計画を令和5年10月に策定し、同時に、政令指定都市初のネイチャーポジティブ宣言をした。市民、事業者など多様な主体が連携してネイチャーポジティブに取り組むことを宣言している。
  • 令和6年6月に「なごやネイチャーポジティブパートナー制度」を設立した。この制度の狙いは、取組の輪の拡大と、パートナー同士のネットワークづくりである。この制度を通じて、活動における様々な課題を抱えている保全団体と支援をしたい事業者をマッチングすることで課題の解決を図る。10月末現在で128の事業者・団体を認定している。
  • 実際のマッチング事例として2つご紹介したい。1つ目は山崎製パン株式会社とNPO法人なごや東山の森づくりの会のマッチングである。2つ目として、名古屋市守山区にあるフジ建設株式会社と、水源の森と八竜湿地を守る会のマッチングを紹介する。本市からお声がけをし、同じ守山区の企業と団体をマッチングすることが出来た。
  • 「なごやネイチャーポジティブパートナー制度」を通じた保全団体と事業者のマッチングを増やして、効果的、持続的な保全活動など、現在抱えている地域課題の解決とネイチャーポジティブの実現を図っていきたい。名古屋市内はもちろん、市外の方も申請可能なので、ご興味ある方はWEBサイトをご覧いただきたい。
写真:事例紹介する名古屋市蟹江氏
山崎製パン株式会社 総務本部 総務部 環境対策課 清水 祥子氏
  • 当社が生物多様性保全活動を行う理由は、当社は食品メーカーであり、その原料である小麦や水、卵、その他農産物などは自然資本であるため、現在の生物多様性の損失の状態が続けば将来的に大きなリスクになると考えているから。今後も安定した事業活動を継続し、地球環境を将来の世代に引き継ぐために、生物多様性の保全が重要だと考えている。
  • 昨年、環境省主催の自然共生サイトマッチングイベントで、当社の工場所在地である名古屋市が「なごや東山の森」への支援者を募集していたことが名古屋市との取組のきっかけである。
  • 当社は、事業活動を通じて「なごや東山の森」の生物多様性保全活動へ寄付を行った。ご当地製品「コッペパン(西尾の抹茶入りクリーム&ホイップ)の売上1個当たり1円を、名古屋市からご紹介いただいたNPO法人なごや東山の森づくりの会へ寄付した。
  • 単純に寄付をするのではなく、事業活動の一環として支援を行っている。また、地元食材のPRにつなげ、製品には取組のPRラベルを貼りお客様へ生物多様性保全の大切さを訴求した。
  • もう1つの取組は、なごや東山の森の整備活動への参加である。先日11月15日に当社名古屋工場の従業員とその家族23名が竹林整備活動に参加した。
  • 今後も名古屋市、NPO法人なごや東山の森づくりの会と協力し、生物多様性保全活動を継続していく。
写真:事例紹介する山崎製パン清水氏

(2)「『徳島ネイチャーポジティブ経済移行推進本部』の取組について」
徳島県 生活環境部 サステナブル社会推進課 自然環境担当 課長補佐 和良氏
とくぎんトモニリンクアップ株式会社代表取締役社長 天野 嘉彦氏

株式会社sustainalife 代表取締役 谷 圭祐氏
とくぎんトモニリンクアップ株式会社代表取締役社長 天野 嘉彦氏
  • 事務局を担っている、とくぎんトモニリンクアップ株式会社は、徳島県に本店を置く地方銀行である徳島大正銀行の子会社であり、徳島県の豊かな自然資本を活かしたビジネスづくり、食とエネルギーの自給をテーマに、地域のGX、一次産業の活性化、まちづくり、補助金申請サポートを事業領域として設立された。
  • 徳島県は「生物多様性とくしま戦略」を策定し生物多様性とESG投融資に推進されてきた。徳島大正銀行からの提案により、徳島県と株式会社sustainalife の共催で「自然環境に配慮した経済への移行」をテーマにしたシンポジウムを昨年11月に開催した。
  • 今年3月に、徳島県、徳島大正銀行、とくぎんトモニリンクアップの3者共同で「とくしまネイチャーポジティブ宣言」を表明した。都道府県と地域の企業や金融機関による「共同宣言」は、全国初の事例である。
  • ネイチャーポジティブ経済への移行に向けた取組の宣言と同時に、連携協定を締結し、「産・学・官・金」で構成するネイチャーポジティブ経済の推進組織として推進本部を本年4月28日に立ち上げた。この事業は、官民連携の事業として徳島県の有力な企業の協賛、人的・金銭的支援をいただき進めており、徳島県ぐるみで取り組んでいることが特筆すべき点である。
徳島県 生活環境部 サステナブル社会推進課 自然環境担当 課長補佐 冨永 和良氏
  • 令和7年度からの新規事業である「ネイチャーポジティブ」普及促進・実践事業の概要・目的は、「環境保全」と「持続可能な経済活動」の両立を実現するため、県内の産学官金が連携し、ネイチャーポジティブを推進することで、自然環境の保全・回復を図るとともに、一次産業をはじめとした経済活動の活性化を目指すことである。
  • 事業実施にあたっては、本年6月~7月に、推進本部で公募型プロポーザルを行い、株式会社sustainalife を委託事業者として選定した。今月14日に開催した第1回の研修会には、県内の産学官金や環境団体の関係者など計124名に参加いただいた。
  • 事業予算は、徳島県負担金に加え、企業版ふるさと納税や協賛企業からの協賛金など民間資金も活用し、総事業費は15,600千円となっている。
写真:事例紹介する徳島市富永氏、とくぎんトモニリンクアップ天野氏
写真:事例紹介するsustainalife谷氏

(3)「人と自然が共生するまち ネイチャーポジティブの実現に向けて」
北海道栗山町環境生活課 課長 杉本 整昭氏
一般社団法人栗山青年会議所 理事長 西岡 政則氏
夕張川自然再生協議会 会長 土井 猛氏

北海道栗山町環境生活課 課長 杉本 整昭氏
  • 北海道栗山町は北海道中央部に位置し、札幌市、新千歳空港、苫小牧市から車で約1時間の自然豊かなのどかな町である。自然に恵まれた栗山町では、「ハサンベツ里山20年計画事業」、夕張川の魚道整備や稚魚放流事業など、官民協働による取組を進めている。
  • 栗山町では、様々な分野で環境保全・再生を目指す取組を進めており、町の重要施策の1つとなっている。昨年9月14日に栗山商工会議所青年部・栗山青年会議所・夕張川自然再生協議会・栗山建設協会から提起された「栗山町ネイチャーポジティブ宣言」を、北海道内の地方公共団体に先駆けて町の政策方針として表明した。
  • これまで官民協働で形成されてきた多様な生態系を保全する取組を今後も継続するために、ネイチャーポジティブの実現に向けた取組を、「栗山町総合計画」にも追加をした。
  • 現在、ハサンベツを中心とした自然共生サイトの認定を目指している。また、6月には、当時の環境副大臣中田宏様を招いて、「ネイチャーポジティブの集い」を行い、町全体が官民協働でネイチャーポジティブを実現していく意思確認を行った。
  • 「人と自然が共生するまち くりやま」という目指すべき将来像を達成するために、町民、関係機関・団体、町がそれぞれの役割を担いながら、これまで行ってきた町内外に誇れる官民協働の取組を通して、ネイチャーポジティブの実現に向けて取り組んでいきたい。
一般社団法人栗山青年会議所 理事長 西岡 政則氏
  • 「サケが帰ってくる川づくり」について報告する。夕張川自然再生協議会と行う事業で、「ふるさとの川夕張川」を再生のシンボルとしてサケの自然回帰を掲げ、サケの稚魚放流会を2008年からスタートしている。2015年には72年ぶりにサケが遡上した。夕張川流域の雨煙別川が「かわまちづくり計画」として登録されるなど、地域活性化につながる河川空間を作り出す取組を行っている。
  • 2018年よりベネフィット・ベンダー事業、寄附型自動販売機の啓蒙活動に取り組んでいる。サケの稚魚放流会などに参加出来ない高齢者など、町民の皆さまに自販機設置を推進し、購入することで、地域貢献をしてもらえる環境を作っている。
  • もう1つの取組として、サケの見える化プロジェクト「故郷の川クリーン大作戦」がある。今年は「ネイチャーポジティブ・アクション2025」と銘打ち、企業や事業所が「CSR活動」がしやすいように、平日に開催し、112名が参加した。
夕張川自然再生協議会 会長 土井 猛氏
  • 「くりやまネイポジポカード」について紹介する。栗山町の地域経済を好循環させるきっかけとするため、北海道の地方公共団体に先駆けて表明した「栗山町ネイチャーポジティブ宣言」に掲げる「自然を守り、次代につなぐまちづくり」に貢献するカードを目指して、この名称を採用し、愛称をポジポとした。
  • 加盟店数は、令和7年10月末時点で106事業所となっており、さらに増やすために頑張っているところである。行政のサービスとポジポが連携することで、地域内の消費創出による産業振興や、町民参加を促し、総合的な町政推進を図るため、まちづくり応援ポイント「くりポ」の取組も実施している。まちづくりや環境保全、ネイチャーポジティブへの貢献につながる行動でポイントが貯まる仕組みである。
写真:事例紹介する北海道栗山町杉本氏、栗山青年会議所西岡氏
写真:事例紹介する夕張川自然再生協議会土井氏

パネルディスカッション

コーディネーター:一般社団法人イクレイ日本 事務局長 内田 東吾氏
登壇者:事例発表者8名

【取組のきっかけとモチベーション】

内田:
皆さん全員に「どういうモチベーションで取組に参加されたのか。どういったきっかけがあったのか」をお聞きしたい。ネイチャーポジティブに向けた取組を進めていかなくてはいけないが、何をどういう形で始めたらよいのか悩まれている方も多い。皆様が、どういう経緯で参加し現在に至ったのかを共有していただくことで、参加いただいている方々のヒントになるのではと考えている。

蟹江:
「なごやネイチャーポジティブパートナー制度」の前年の「なごやネイチャーポジティブ宣言」が大きなきっかけである。この宣言を行政側の一過性で終わらせるのではなく、市民や事業者を巻き込んでネイチャーポジティブのムーブメントを起こして、普及浸透、機運醸成を図ることが一番大きな目的である。その中で、山崎製パンからのお声がけは大変ありがたかった。これをきっかけにどんどん広めていきたい。

内田:
今のお話を受けて、山崎製パンは企業としてどのようなきっかけで活動に参加することになったのか伺いたい。

清水:
当社は、自然資本を元に成り立つ食品メーカーであるため、生物多様性の保全、30by30の目標達成に向けて貢献したいと思っていたが、何をしていけばよいか、どうしたら貢献できるかということは手探りだった。自然共生サイトは、生物多様性の価値があると国が認定している場所であり、サイト側からどのような支援を求めているか公表されているため、自然共生サイトの支援を通じて30by30目標の達成に貢献したいと考えるようになった。
環境省主催の自然共生サイトマッチングイベントで「なごや東山の森」の紹介があり、名古屋市には名古屋工場があるため、これはチャンスだと思い、すぐに名古屋市に連絡した。
もう1つのモチベーションとして、実際になごや東山の森に視察に行った際、名古屋市の都心部に豊かな自然が残っていることと、NPO法人なごや東山の森づくりの会がより多くの生き物が生息する場所とするために尽力されていることを知り、絶対に支援したいという思いで開始した。

内田:
私も現地に行ったことがあるが、あの周辺は雰囲気がガラっと変わる。民間の方の参入で取組が大きく推進するのではないかと期待している。

【取組のきっかけとモチベーション:徳島県】

天野:
きっかけは大きく2つある。1つは、とくぎんトモニリンクアップが食とエネルギーの自給、自然資本を活用した事業づくりを目指すにあたり、ネイチャーポジティブに取り組むことこそ我々の存在意義だと考えた点である。
2つ目は、徳島県とは従前よりGX分野で連携しており、次はネイチャーポジティブ経済移行戦略を実践し、徳島モデルを一緒に作っていきたいと考えたことである。

冨永:
私がこのプロジェクトの話を初めて聞いたのは昨年6月頃で、県の実務担当者を検討している段階でした。私は、生物多様性の地域戦略を担当していたこともあり、お誘いいただいたと思うが、県と地元金融機関との、これまでにない密接な事業が出来そうだと感じた。現在、関係者間の絆も深まり、前向きに仕事出来ていると感じている。

内田:
信頼関係という話があったが、どれくらいの頻度で会話されているのか。

冨永:
Sustainalifeの谷さんは、普段 東京にいらっしゃるので、オンラインで定例会を、多いときには週1回程度実施している。

谷:
まず、自己紹介をさせていただきたい。私は「食から見る町づくり」を仕事にしている。食はその地域の風土、気候、いわゆる自然資本によって生まれるもので、昔から続く価値や町らしさを作っている。食を強みにした町づくりの仕事をしている。
普段から生産者さんと話す機会も多く、生産者の方はネイチャーポジティブの直接的担い手だと思っていた。そういった彼らを支えるのが私の使命だと思い事業を探していたところ、徳島県が募集をしており、土地勘や地域の皆さんの動きも少しは知っているため、私の強みを活かせると考えご一緒することになった。

内田:
この事業に関わる前、徳島県とどういうつながりがあったのか。

谷:
個人的には何度も足を運んでいた。前職では脱炭素をテーマに活動しており、素晴らしい活動がある地域に何度も視察に訪れた。環境省の事業で事務局を担い、たまたま徳島県を担当した。

内田:
今の時代、必ずしも近くにいなくてもオンラインで打ち合わせが出来るし、地域をよくご存知であればこういった連携の形もあると感じた。

【取組のきっかけとモチベーション:栗山町】

土井:
2007年、青年会議所のメンバーとして、サケの稚魚放流会を始めた。40歳で青年会議所を卒業した後もっと広めたいと考え、2015年に夕張川自然再生協議会を立ち上げた。一昨年、勉強会で初めてネイチャーポジティブを知り、我々が続けてきたことはネイチャーポジティブにつながっているんだと気付き、それを中心に考えていくことになった。これまで以上に行政と深く関わり合いながら実践している。

西岡:
青年会議所の事業は、目に見えてはっきりと成果が出ることが難しい取組が多い。その中で、サケの稚魚放流会は、サケが4年回帰で帰ってくる。サケが帰ってくる川をきれいな状態で存続するための河川清掃も、地域の川と町民がいかにつながるかを視野にいれて取り組んでいる。
ベネフィット・ベンダーは、自動販売機を設置するだけで自然環境に気持ちを寄せているということになる。また、飲料を買っていただくと知らぬ間に地域の河川の事業に寄与するということがモチベーションになっているのではないか。

杉本:
お二人から話があったように、栗山町は、もともと企業/団体との官民協働の素地があり、現在の自然環境につながっている。企業が集まる栗山商工会議所青年部等から提起を受け、行政もしっかり関わり、これまでの自然環境を後世につないでいきたいと考えた。

内田:
企業側の発意で行政に働きかけた流れが興味深い事例である。
続いて、発表者同士相互に質問をしていただきたい。

【名古屋市における行政と企業の関わり】

杉本:
名古屋市に質問したい。私たちもネイチャーポジティブの実現には企業との関わりが必要だと考え模索している。「なごやネイチャーポジティブパートナー」制度に取り組むきっかけと、事業者にすぐ理解されたのか、工夫をされた点をお伺いしたい。

蟹江:
きっかけは、令和5年の「なごやネイチャーポジティブ宣言」だが、ネイチャーポジティブは行政だけでは出来ない。保全団体と企業をいかにつなげるかに取り組んでいるところだ。ただ、そう簡単にはいかない。事例として紹介出来る案件はまだ少ない。パートナーになっていただいている128の企業/団体が、すべてマッチングできてるわけではない。事あるごとに制度を積極的に紹介し、地道にご案内する活動をしている。今は「足で稼ぐ」のが現状である。

内田:
「足で稼ぐ」ということだが、名古屋市で実施されているイベント等で接点を作ってコミュニケーションされているのか?

蟹江:
大きなイベントがあった場合、団体をお呼びすることがあり、コミュニケーションしている。中にはパートナーに申請だけするという方もいるので、アナログも使い、こちらから積極的にアクションをしている。

天野:
山崎製パンさんにお伺いしたい。徳島大正銀行は、20年以上前から植林活動など、行員参加により森づくりに取り組んできた。今回のネイチャーポジティブに関する取組について行員・社員全体に浸透させていきたいと考えている。御社の取組によって、社員の行動変容につながった事例、社員への啓発事例を教えていただきたい。

清水:
それは私たちも課題ととらえている。本社で発行する社内報で環境啓発のページを作り、発信をしているが、全社員まで情報が届いているかは課題である。そこで諦めず、「こういうことやってます。一緒にやりませんか」と声をかけている。逆に事例があれば教えていただきたい。

天野:
行内で色々な研修があるので、そこでネイチャーポジティブに関する取組について発信をしている。アイデア段階ではあるが、行員がネイチャーポジティブを実現するためのビジネスづくりに一緒に参画するということが今後出来たら良いなと考えている。

清水:
大変参考になる。食品メーカーのため、生物多様性の知識や技術があるわけではないので、自治体の計画への参加や金銭的な支援しか出来ないが、社内で実施する研修で取組を紹介していきたいと思う。

内田:
そのレベルまで行くのが難しい企業も多い中、素晴らしいことをやっているので、自信をもって社内に宣伝してほしい。
この分野は、善意やCSRの活動から突破出来ていないのが正直なところだろう。こういった事例を共有しながらビジネスの主流に持って行く議論が出来ればと思う。

【取組による成果、影響について】

清水:
栗山町のサケの遡上を興味深く聞いた。2015年にサケが遡上したとのことだが、それ以降継続して戻ってきているのか。また、他の生物も増えているのか。

土井:
2007年からサケの稚魚放流会を始めた。かつて炭鉱では、夕張川の水を使って石炭を洗っており、真っ黒な川で生態系がほぼ失われた。炭鉱閉山後しばらく経ち、たまにサケが上がっているという目撃情報があった。そこで2006年に調査したところ、戻って来ているということが分かり、孵化場から一万粒の卵をもらって放流会を開始し今まで継続している。帰ってくる年もあれば、数少ない年もある。これは川だけの問題ではなく、海の問題が影響している。これは漁業にも食にも関わる問題であり、ずっと続けていかなくてはいけない活動だと考えている。

清水:
自然保護の活動は、結果が見えないことが多く、これが正しいことなのかと迷う事もある中で、サケが戻ってくるということは自分達のモチベーションにもつながると思った。

土井:
サケ稚魚放流にあたって里親事業をやっている。一般の方に、サケの卵を12月から約5カ月飼ってもらい稚魚になったものを川に放流するという活動をしている。水槽と餌一式をこちらで用意しており誰でも参加できる。子どもの時に始めて二十歳を超えた方もいる。栗山町にお住いの栗山英樹前野球日本代表監督にも飼ってもらい、毎年一緒に放流している。

写真:パネルディスカッションの模様

【多くの参加者を巻き込むためには】

参加者(チャット):
栗山町の事例について、延べ1,500人がご参加されたとのことだが、なぜそのように多くの方を巻き込めたのか。

杉本:
ご質問は、資料P2の雨煙別小学校の再生の取組である。町民ボランティアの参加1,500人は延べ人数である。廃校になった小学校の再生について、コカ・コーラ教育・環境財団の支援を受けたがすべてそこに頼るのではなく、改修に思い入れのある町民もしっかり関わろうと呼びかけた。壁塗りなど出来ることをすることで関わった。

内田:
「延べ」はネガティブではない。こういう課題であるが故に、継続して関わり続ける方がいることが大事なので、自信を持ってほしい。栗山町の皆さんは、自分達の強みや何を大事にしたら良いのかを中心に考えていらっしゃると感じる。そういったところが取組の成果につながっているのだろう。

【点の取組をつなぎ、面にしていくためには】

参加者(チャット):
とくぎんトモニリンクアップ株式会社天野様にお尋ねしたい。特に中小企業においてネイチャーポジティブの認知はどのくらいあったか? 中小企業に対する意識付けで有効だった事例があれば教えていただきたい。

天野:
研修会の参加者にワークショップ後の感想を聞いた。中小企業の方もおり、「ネイチャーポジティブは中小企業単体では難しいので、コーディネートしてくれる組織があると良いと思っていた。推進本部という組織に期待する」という声があった。研修会で議論した結果、「関与出来るかもしれない、何か出来るかもしれない」という意識付けになったと感じている。
徳島大正銀行の子会社であるとくぎんトモニリンクアップが事務局を担っているが、協賛企業の中には地元の金融機関も入っている。当社自身で阿波銀行さん、四国銀行さん、徳島信金さんに説明に行きご協賛いただいた。「阿波銀行さんを呼んだことがすごいですね」という声もあり、とくぎんがやっている事業ではなく、徳島県全体の取組だと認識いただいた。
今後は、ネイチャーポジティブを実現するための事業づくりについて、点の事業者を推進本部でつなぎ、面にしてオール徳島でとくしまモデルを作っていくことが実現出来れば、それぞれの強い思いを持った皆様にとって有効なものになるだろうと信じている。

内田:
さらっとおっしゃいましたが、すごいことをされている。サステナビリティ分野は色々なステークホルダーとの連携が必要だとよく言われるが、と同時に仲の良い者同士の連携だけでは何も変わらないとも言われている。今まで連携出来ていないところとも、あえて連携することが重要である。
谷さんに徳島の特徴をお伺いしたい。

【コミュニケーション、信頼関係の積み重ねが大事】

谷:
天野さんの発表にもあったが、コミュニケーションするだけで意外と前に進むことがたくさんあると感じている。研修会のワークショップに参加した生産者からも、「次は、自分達がどれだけ自然を大事に思っているか、自らの口で話したい」「企画から入らせて欲しい」という提案もあった。思いのある人が発言出来る場を作っていくことが重要だと思った。
コミュニケーションという観点では、栗山町の例も勉強になる。用事があるから話すのではなく、定期的に顔を合わせて信頼関係を積み重ねる関係が大事だと感じた。
サケの放流は私も是非参加したいと感じる。目の前に流れる川が単なる景色ではなく、放流して、帰ってくるサケを待ち、美味しくいただくという経験の中で、栗山町愛が育まれるのだろう。Win-Winの関係を超えて地域を盛り上げようという思いで色々な中小企業が乗ってくれると良い。地域全体を巻き込むために、あなたたちの問題だから自分たちは手伝いませんと出来ないことを言うのではなく、お互い出来ないことを解決しあうという連鎖がどんどん広がると良い関係が生まれるのではないか。

内田:
「サステナビリティは地域愛、郷土愛だ。それがないと行動につながらない」というユースの言葉が印象に残っている。地域に対する思いが、今目の前にある自然を守る、それがどのように生活につながっているのかを考えることにつながるという発言だった。
名古屋市は愛知・名古屋COP以来、生物多様性に取り組まれていて、自治体ネットワークの代表もされているが、感想を伺いたい。

蟹江:
徳島県、栗山町の話を聞いて率直にすごいと感じた。私たちは、「なごやネイチャーポジティブパートナー」を紹介したが、2つの自治体は地域ぐるみで取り組んでおり、壁がない感じがする。1つのチームとして動いていらっしゃることが伝わった。

内田:
名古屋市の事例も素晴らしいので、引き続き発信いただきたい。
是非、発信を皆様に意識いただきたい。日本の良い取組をきちんと発信し、賛同者を募り、仲間を増やしていけたら、日本全体でネイチャーポジティブの実現が見えてくるのではないかと思う。本日は、皆様ありがとうございました。