2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF) 第三回地域連携フォーラム【開催報告】

開催日時 2023年10月30日(月)13:00~15:00
会場 オンライン(WebEX)
主催 2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)
参加者 約120名

オンライン開催の模様は、こちらの環境省YouTubeチャンネルでご覧いただけます。
ぜひ、ご視聴ください。


開会挨拶

環境省 生物多様性主流化室 浜島 直子室長

  • 今回のテーマは、自治体内部の課題にフォーカスし、庁内横断的な連携としたが、企業のご参加が多い。ビジネス界の関心の高まりを感じると共に、企業が自治体と対峙する際に部局ごとの壁を感じているようだ。
  • 環境省は今年、ネイチャーポジティブ元年と捉えている。ネイチャーとかネイチャーポジティブ分かりにくい、測りにくいと言われるが、人の周りの物全部を指している。つまり、取り組みのきっかけがあちこちにある。脱炭素も循環も、住みよい地球・地域のために実施している。これを分かりやすく発信したい。
  • 今年3月に生物多様性国家戦略を策定し、10月にJ-GBFとしてネイチャーポジティブ宣言の呼びかけを開始した。また、ネイチャーポジティブ・キャラクター「だいだらポジー」を発表した。
  • 国としても関係省庁と協力して、ネイチャーポジティブ経済移行戦略を策定している。本日の議論が、地域におけるネイチャーポジティブ実現に向けた、きっかけとなることを祈念する。
写真:オンラインで開会挨拶を行う浜島 直子室長

名古屋市 環境局 坂本 敏彦環境都市推進監(生物多様性自治体ネットワーク代表)

  • 生物多様性自治体ネットワークは、COP10で採択された愛知目標の実現のため、2011年に自治体間の連携を進めるプラットフォームとして設立。現在193自治体が加盟している。
  • 生物多様性国家戦略では2030年までにネイチャーポジティブを実現するという目標が掲げられた。そのためには自治体・事業者・教育機関・民間団体、あらゆる主体が参加・連携・協力・協働・行動し、セクターを巻き込んだ取り組みを進める旗振りの役割が自治体であり、責任を痛感している。
  • 10月28日に市長が「なごやネイチャーポジティブ宣言」を表明した。市民・事業者と一緒に実現を目指す。地域における施策を進めるためのアイデアを今回の事例発表から学び、考える機会としたい。
  • 本フォーラムが、新たな交流や気付きのきっかけ、その着実な一歩となることを願う。
写真:オンラインで開会挨拶を行う坂本 敏彦氏

事例発表

松永 暁道(環境省生物多様性戦略推進室 室長補佐)/「生物多様性地域戦略について~生き物保全計画を超えて他分野連携へ~」

  • 今年3月に生物多様性国家戦略を策定。ポイントは「生物多様性の損失」と「気候変動」の2つの危機に統合的に対応する。自然保護だけではなく、社会全体の根本的な変革が必要。2050年、自然と共生する世界を目指す。生態系サービスの向上、グリーンインフラ、気候変動とのシナジー、トレードオフの緩和、ビジネス、行動変容など、分野横断的な目標となっている。
  • 30by30目標について。保護地域以外の民間の所有地を自然共生サイトとして登録し、OECM制度を利用して全体のネットワーク強化に貢献してく。先日、第1弾として122の地域が選定されたが、その多くが民間企業の土地だった。
  • 自然を活用した課題解決(NbS)について。生態系は、森林によるCO2吸収固定機能・地下水涵養機能・藻場などのブルーカーボンなど脱炭素とのシナジーがある。森林・農地・湿地・海岸林は防災減災効果・ふれあい・癒しの効果がある。多機能性を活かし、分野を繋いでいく意識が必要。
  • 生物多様性の企業情報開示(LEAPアプローチ・TNFD)が動き始めた。自然との接点を発見し、リスクと機会を評価して開示していく。TNFDとOECM・自然共生サイトが繋がった例として、キリンホールディングス「椀子ヴィンヤード」の例がある。
  • 地域レベルで、これらをいかに統合していくか、その核となるのが生物多様性地域戦略。地域として、自然を活用した価値の創造に関して、明確な意思表示をする。地域戦略を通して、ネイチャーポジティブ宣言をすることは、地域と企業をマッチングさせるツールになる。
  • 脱酸素とのシナジー、NbSを経済に実装していく。30by30について地域ごとに出来るところを繋いでいき、ネイチャーポジティブの実現を進めてほしい。
写真:オンラインで資料を用いて発表を行う松永 暁道氏

続橋 亮(農林水産省 みどりの食料システム戦略グループ 地球環境対策室長)/「みどりの食料システムに基づく取組の進捗状況-地方自治体に期待することについて-」

  • みどりの食料システム戦略法が令和4年7月1日に施行。国が基本方針を策定し、自治体が基本計画を作成。自治体が環境負荷低減に取り組む農業者を認定し、環境負荷低減に役立つ技術を開発する企業を国が認定する。温室効果ガスの削減、生物多様性の確保が基本理念。各県が作っている生物多様性の基本計画と合わせて実施していく。
  • 令和4年度に全ての自治体で基本計画の策定が終了し、農業者930名が認定(令和5年8月現在)。例えば、水田除草機の導入、化学肥料・農薬を低減した自給飼料の増産、IPM(統合的な農薬の管理)で農薬の使用量を減少など幅広い認定事例があり、温室効果ガスの削減、生物多様性の確保に貢献している。
  • 事業者の認定では、バイオ炭を農地に埋めて炭素固定と有機栽培に適した土づくりを両立する技術をもつ事業者などが認定を受けている。
  • 地域ぐるみで実施しているモデル地域、特定区域を、全ての自治体に広めていきたい。自治体と一緒に取り組んでいきたい。自治体で使える交付金は、全国幅広く活用されている。普及員のマニュアル作成の支援も行っている。
  • 有機農業の取り組みを拡大については、有機JASを取得するコストがかかることと、アメリカや欧米のように、2、3割高く売れるようにはならないことが課題。オーガニックビレッジとして生産者・流通業者が構成員となって、道の駅などで販路を確保した上で広めていく取組は、かなり広がってきている。
  • 生産者側で温室効果ガスを削減し、環境負荷を低減していることが消費者に伝わって、評価してもらえるようするため、温室効果ガスの削減率に応じて農作物等に星を付ける実証を進めている。今後、生物多様性保全に寄与していることもラベル表示するという検討を進めている。
  • J-クレジット、排出権の取引が今月中旬に東京証券取引所にオープン。取引活性化に期待。国際的な発信も進めている。
写真:オンラインで資料を用いて発表を行う続橋 亮氏

一丸 結夢(国土交通省 総合政策局 環境政策課 課長補佐)/「自治体におけるグリーンインフラの推進について」

  • グリーンインフラの定義は「社会資本整備や土地利用のハード・ソフト両面において、自然環境が有する機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組」。ソフトも含まれ、構造物ではなく、あくまでスローガン。
  • グリーンとは、自然環境の機能。植物がCO2吸収・生物多様性に貢献・土壌が水を吸収など。これらをまちづくりのインフラ整備に取り入れる。一つの整備で複数の課題を解決する取組。
  • 対象エリアが幅広い概念で樹林地・河川・港湾なども含む。
  • 様々な閣議決定にグリーンインフラが登場している。国交省だけではなく、政府全体で推進している。
  • 社会情勢・世界的な潮流を受け、「グリーンインフラ推進戦略2023」を9月に策定、公表した。前戦略は令和元年に策定したが、概念が浸透してきた、実装のフェーズに移行した、ネイチャーポジティブやカーボンニュートラルの変化を受けて全面改訂した。
  • 自然と共生する社会を目指す4つの柱を設けている。産学官の多様な主体の取り組みの促進、評価認証指標の構築、新技術の開発、支援の充実など。将来的にはグリーンインフラが当たり前にある世の中にしたい。
  • グリーンインフラ官民連携プラットフォームを令和2年3月に設立、1800者程度が会員となっている。自治体は100程度。ぜひ登録していただきたい。
  • 自治体への支援として「先導的グリーンインフラモデル形成支援」。重点支援団体を支援している。専門家を派遣などして、お手本となるような自治体を作る事業。札幌市の事例「サッポロスタイル」では、庁内の連携体制の構築のため勉強会2回し、庁内の気運を醸成。川口市でも庁内連携の勉強会や庁内だけではなく公園緑地公社など外部の人も入ってもらい、きっかけを設け、自分事に捉えてもらった。
  • 支援してきた自治体のノウハウを生かし、実践ガイドを10月16日に公表した。参考にして欲しい。
写真:オンラインで資料を用いて発表を行う一丸 結夢氏

包國 雄太(佐倉市 都市部 公園緑地課 公園活用班 主任主事)/「グリーンインフラと持続可能なまちづくり」

  • 国交省から先導的グリーンインフラモデル形成支援を受け、佐倉里山自然公園の整備事業を進めている。平成19年から基本方針、基本計画策定、用地取得などしてきたが、計画策定から10年経過し、社会情勢・ニーズに変化があったため、グリーンインフラの推進、ウェルビーイングの向上、民間事業者との連携を盛り込み、今年6月に新たに基本構想を策定した。
  • 今後、構想に基づいた具体的なプロジェクトを誰がどのように実行していくか。アクションプランの策定、庁内の勉強会・市民団体とのワークショップなどを通じ、施策に基づいたリーディングプロジェクトを検討している。候補として、OECM認定、バイオ炭によるカーボンニュートラルへの貢献、里山大学の開講など現在、国交省・コンサル・専門家から支援いただき、進めている。
  • バイオ炭によるカーボンニュートラルへの貢献、有機農業の推進、人材育成と世代交代の促進には、公園緑地課だけではなく環境部門、農政部門との連携が不可欠。森のようちえんでは子育て部門との連携。防災減災対策では危機管理部門との連携。多くの市民に恩恵を還元できる施策となるポテンシャルが高さを感じている。庁内連携体制を構築、プロジェクトを検討している段階。
  • 市民団体が、竹林を整備し景観を保全だけでも良いが、バイオ炭にすることで、カーボンニュートラルに寄与し、畑に埋めることで土壌改良材になる。環境部門・農政部門・市民団体と連携しながら試行的に実施している。
  • 森のようちえんとは自然体験活動を通じた、子育て・保育・幼児教育の総称。豊かな自然環境を活かした外遊び活動・野外体験活動の場を提供することにより、子供たちが自ら考え行動する力を育みたい。既に子育て部門と連携して支援している。
  • プレイパークは子供が自ら遊びを作り出せる取組だが、市民にまだまだ広がっていない。子育て部門と連携し、市がプロモーションしていくことで広げていきたい。
  • 「里山大学」では多くの市民団体が活動しているが、高齢化が課題。持続可能な里山環境づくりを実現するために、人材育成・世代交代を促進。財源として森林環境譲与税の活用を検討しており、農政部門・環境部門と連携し、検討している。
  • グリーンインフラは色々な分野に波及、効果を発揮する。佐倉里山自然公園の整備を通じて、人と自然が共生する持続可能なまちづくりを目指す。
写真:オンラインで資料を用いて発表を行う包國 雄太氏

小久保 智史(小山市 総合政策部 自然共生課 生物多様性係 係長)/「ネイチャーポジティブに向けた小山市の取組」

  • 小山市では1990年代から、「コウノトリの住める渡良瀬遊水地」を将来像に掲げた市民活動を開始し、2012年ラムサール条約登録地となった。2020年からコウノトリの野外繁殖が確認されている。マルチステークホルダーによる葦焼き、外来種の除去、環境にやさしい農業、ヨシ灯り、ガイドによる環境教育などが、10年以上行われている。
  • この取組を市内全域に広めていくため、今年10月にネイチャーポジティブと、カーボンニュートラル・ゼロカーボンシティのW言行った。市と市議会が一緒に宣言することで良い強制力が働いている。
  • 小山市総合政策部はユニークな組織。政策部門に加えて、長期まちづくりビジョンを担当する田園環境都市推進課、W宣言推進担当する2の課が入っている。
  • 総合政策部全体でまちづくりの長期ビジョン作りを進めている。「小山市版SDGsウェディングケーキモデル」といえるもので、自然資本があってこそ社会・経済が成り立つというモデルを各政策に落とし込んで捉えている。
  • 地形、地勢から11地区に分け、地域の人から話を聞き、地域の守りたいものを見付け、地域課題解決の素材とする「風土性調査」を実施している。コンサル任せではなく、市民や職員も同行。調査結果等をウェブマガジンで共有し、ボトムアップでのネイチャーポジティブの実現を目指している。
  • 合わせて生物多様性地域戦略の10年ぶりの改訂に取り組んでいる。都市計画マスタープラン・緑の基本計画・農業振興計画を統合的な改訂を進めている。基礎調査の結果では、生態系ネットワークが分断されている状態だった。核となる場所は、平地林、河川敷、水田など、地域の人々にとっての想いのある場所と重なる。地域が守りたい場所、景色を守ることから始めたい。
  • リーディングプロジェクトは3つ。平地林の保全は喫緊の課題。生物多様性の危機に対応するためには、自然の真の価値を理解することが大事。方法のひとつは自然と触れ合うことと、子供のころの自然体験。1年の間に自然を感じ、生き物と触れ合った人は、50%。これを増やしていきたい。
  • ワークショップとフィールドワークを繰り返す市民参加型の育成プロジェクト「おやまグリーン・アクションプロジェクト」では、市内唯一の保安林で自然観察会を行った。この場所の自然共生サイトの認定も目指す。
  • マルチステークホルダーの取り組みが始まっている。組織もできて、まちづくりビジョンも体制が整い、地域戦略が改訂される。多くのスモールスタート、チャレンジをし、トライ&エラーを繰り返していく。
写真:オンラインで資料を用いて発表を行う小久保 智史氏

川満 尚樹(仙台市 環境局 環境共生課 環境共生係 係長)/「自然共生サイト認定促進に向けた庁内連携の取り組み」

  • 仙台市では平成29年に生物多様性地域戦略を策定。令和元年度に、身近な生き物に接しているか調査したところ、認識度は向上したが、猛禽類生息適地については、減少している。
  • 杜の都、The Greenest Cityを標榜しているので、相応しい環境を維持し、生態系サービスを継続的に享受し、ブランド力向上に繋げていくためにも、生物多様性の保全に積極的に先行的に取り組みたい。そのために自然共生サイトの申請をした。
  • 認定された「仙台ふるさとの杜再生プロジェクト」海岸防災林を紹介する。2011年の震災による津波により、東部の防災林や屋敷林が失われた。東部沿岸地域で、ふるさとの森として再生しようと始まったもの。10年の取組により、在来の草本、昆虫、小動物、鳥類など、健全な生態系が戻ってきている。建設局100年の杜推進課が担当、官民連携の組織である実行委員会によって管理を行われている。
  • 10年間グリーンインフラとしての「多重防御」「文化震災の記憶継承」という生態系サービスを目的に、市民協働と、生物多様性の豊かな海岸防災林を育成するNbS(Nature-based solutions)の活動が評価され認定された。
  • 申請に際して、環境局は申請書の作成や手続き、建設局は情報提供を行った。環境局は今後、市内の認定申請を進めるノウハウの取得、課題の洗い出しができ、建設局は、管理地の付加価値向上や認知度向上の成果を得られた。生きもの調査結果などの充分な情報と健全な生態系、生態系サービスの価値がすでにあり、申請に活用できるものが多く、短期間での認定取得に繋がった。
  • 一方で局をまたがる申請を行った結果、見えた課題は、認定取得のメリットが見えないこと。環境局や建設局はそもそもの計画に生物多様性を位置付けているが、さらに市の組織全体の目標として生物多様性を位置付けることで解消されるのではないか。
  • 申請のデメリットはないのか、今後足かせにならないかなどの疑問に対して、具体的な制約はないなど正しい情報を提供していくことで前向きな姿勢が得られた。手間やノウハウの不安に対しては、今回得たノウハウを蓄積し、提供することで、手間を見える化と省力化を図れると考えている。また認定が取り消される心配に対しては、管理についての基準を共有し対応していく。メリットや予算の心配については、認定に関する外部からの協力が広がることで解決できることを期待している。
  • 今後、今回連携した建設局の他に、水源涵養林を持つ水道局とは山林の認定取得を進める。森林、農地を所管する経済局とも情報共有し、地域課題の解決をするような事業展開を検討する。庁内以外の農家などに取得を促すことで、土地管理の質が向上し、杜の都の魅力を向上するよう取り組みたい。同時に市外の企業から支援を受け付ける仕組みづくりを進めていきたい。
写真:オンラインで資料を用いて発表を行う川満 尚樹氏

パネルディスカッション

「ネイチャーポジティブ実現に向けた施策推進のための地方公共団体の庁内連携のあり方」

【パネリスト】
松永 暁道(環境省 生物多様性戦略推進室 室長補佐)
続橋 亮(農林水産省 みどりの食料システム戦略グループ 地球環境対策室長)
一丸 結夢(国土交通省 総合政策局 環境政策課 課長補佐)
包國 雄太(佐倉市 都市部 公園緑地課 公園活用班 主任主事)
小久保 智史(小山市 総合政策部 自然共生課 生物多様性係 係長)
川満 尚樹(仙台市 環境局 環境共生課 環境共生係 係長)
【コーディネーター】
内田 東吾(イクレイ日本 事務局長)

写真:オンラインで意見を交わすパネリスト

テーマ1:庁内連携をどう進めていくか?

内田:
庁内連携をテーマに深堀、ディスカッションしていく。発表者同士の質問、その後、参加者からの質疑応答を後半に行う。

写真:オンラインでディスカッションを進行する内田 東吾氏
【佐倉市の取組についての質疑応答】

続橋:
佐倉市のバイオ炭の取り組みは、ネイチャーポジティブ、生物多様性にも資するもの。私のプレゼンで紹介したTOWINGと話したが、バイオ炭を自分で製造するなら良いが、専門に製造する事業者だと、ゴミを炭にして運ぶので、肥料法に加えて廃掃法の規制にひっかかってくる。廃掃法は管轄が環境部局になり、審査も厳しいので、作って運ぶだけで2、3年かかるという課題を聞いた。その点はどうか。

包國:
まだ始まったばかりで、今年2月に市民団体が竹を刈って、野積みになっている。バイオ炭に活用できるということで、民間の製造者を呼び試しに取り組み始めたところ。継続できるように、団体と行政が協力する体制作りを考えている。その先、廃掃法の関係やクレジット販売していきたいが、出口戦略を検討について、これから検討していく。廃掃法についても詳しく分かっていなかったので、ご指摘いただきありがたい。

内田:
非常に重要なポイント。プロジェクトの規模感で、今後拡大していくと、廃掃法など関連していく問題が出てくる。

続橋:
絶対出てくる問題。環境省と考えていかなければならない。廃掃法を変えるのは現実的ではないが、不法投棄をいかにはじくかというための法律なので、農業だと出すところと、処理するところが決まっている。特例的にできるかなど、自治体や環境省と一緒に考えていきたい。

松永:
佐倉市へ。これまで里山自然公園の整備の基本計画があって、新しくグリーンインフラやウェルビーイングを入れて基本構想を作られたきっかけは? もう1点、協議会を立ち上げて、運営は大変だと思うが、うまく継続できるポイントは?

包國:
きっかけとしては半分が市の所有で、半分が民有地の虫食い状態だった。半分は平成18年に購入し、残り半分を無償で市が管理できるようにしようとしたが、無償では難しい。予算をつけて、重点整備地域として有償で購入していくことにした。税金で購入するので、守るだけではなく、きちんと活用する場にしなければとなり、取組み始めた。
合同会議という、市民団体、協議体、話し合いの場があった。改めて、趣旨を理解する民間を入れて、協議会に進化させた。たくさんの市民団体が参加している。

【自然共生サイトの推進について】

小久保:
自然共生サイトの認定について、インセンティブは? もう一つは土地利用について、小山市では50%が田畑、20%が都市的利用。農水省、環境省、国交省で調整が進まないと、自然共生サイトの認定が進んでいかないのではないか。

川満:
インセンティブについては仙台市としても知りたいところ。なかなか無い。企業から地方の土地について、支援が引き出せたら良いという話はされているが、市としてもインセンティブがない。ここまでは庁内の取組なので良いが、民間に広げるにはインセンティブが必要。国交省・農水省から、いかがか?

続橋:
自然共生サイトでは、農地としてキリンのワインヤードが認定されている。農地をどう位置付けるかについて審議会に農水省も参画して制度を検討している。一方で位置づけることで軽微な形質変更できない、土地改良ができないとなると、営農に支障が生じるので、不具合が出ないように専門家から意見を頂戴しているので、環境省と連携していく。

内田:
こういう問題があった時に、自治体や企業は誰に聞けばいいのか?

渡邉(環境省):
自然共生サイトのインセンティブ検討会があり、有識者会議で検討中。自然共生サイトに関して申請しようと思った時に、部署をまたがっていて困った時、地方環境事務所にOECMの担当官を置くようにしているので、相談してほしい。省庁をまたがる話は本省に連絡あり、連携するようにしている。

【各課横断の取組を推進するには】

包國:
佐倉市の場合は、公園緑地課の発信で環境、農政を巻き込んだ。小山市だと企画部門が発信でトップダウンではないとのこと。企画部門の中に自然共生課、ゼロカーボンとか、全庁的にまたがる部門が企画課にあるのか? 佐倉市は全庁にまたがる場合は企画をトップにしてプロジェクトを組むようにしているが、小山市は組織的に企画が音頭をとるという流れがあるのか?

小久保:
従来は企画部門がプロジェクトを立ち上げて軌道に乗ったら担当課に引き継いでいた。ビジョン作りも含めて併任すると、組織の壁があり、ブレイクスルー出来ない。ビジョン作りは田園環境都市推進課がメインの担当だが、総合政策部の各課や挙手性で風土性調査やワークショップに参加する。ビジョン作りの委員も、各セクター、市民団体や商工会議所などから集め、公募し、セッションしながら進めている。企画から担当部署に引き継ごうとするとハレーションが起こりやすいが、ビルドアップから一緒にやることでうまくいく。

包國:
都度のプロジェクトではなく、組織体制が出来ていると良いと思った。

内田:
それは首長の影響か? もともとの文化が根付いていたのか?

小久保:
元々官民連携の素地があったが、組織構造はトップダウンでもある。総合政策課とは別に、市長直轄で政策調整担当もいる。通常の定例業務を持たずに庁内のあらゆる分野の調整に関わる担当の配置も大きい。

【環境の保全と活用について】

松永:
佐倉市は協議会を立ち上げて、リーディングプロジェクトもあるが、協議会を回して、色々な意見が出てくる時、行政としてハードル高いと思うが、意見の取捨選択・調整の仕方、他の課も関係してくるが、うまい調整方法や難しさは?

包國:
庁内は、環境部門、農政部門が鍵。環境部門が、ゼロカーボンシティ宣言。農政はオーガニックビレッジ宣言。それに資する取り組みだということで、公園緑地課が言い出しっぺだが、自分事と捉えて佐倉市のためにやる、やらざるを得ないポイントを責めた。国交省にモデルに選定されたのは、市としてなので、外堀を埋めた。
庁外では市民団体が長年活動していた。活用するのは環境破壊だというハレーションが起きる。守っていかないといけないという意識があるため、アウトドア施設などは環境を壊すと言われる。市は、環境を壊すわけではないと2年かけて口説いた。日頃から団体とコミュニケーションを取った。市と団体はそもそも親和性があり、自然を活用していかないと保全できない、循環が大事だ、と話した。社会と経済が回らないと、循環しないし守れないということを理解してもらった。

松永:
自然を活用する、という発想の転換が特に現場の方々には難しい。小山市、仙台市は、いかがか?

川満:
今回は津波で失われた所なので、市民と共同で作ろうとしたのでハレーションは無かったが、他の事例だと、保護しているところに他の人がどんどん入っていくのを嫌がる傾向はある。

小久保:
ネイチャーポジティブ宣言の効果がさっそく現れている。「民間の平地林の所有者が高齢で手に付かない、何とかしたい」という若手農業者から相談があった。代々経営している中小企業の経営者も、周辺が開拓されるので、企業として平地林を購入して有効活用している事例がある。ネイチャーポジティブ宣言を受けて、中小企業向け講演会をやって欲しいとか、そういった場所を何とか活用していけないか、企業・市民・行政の共通価値に結びつけられないかという相談が来ている。兆しは見え始めている実感。

【グリーンインフラへの関心の高まり】

内田:
グリーンインフラへの関心が高まっていると感じている。活用と繋がる。開発の考え方を変えていこうという、大きなチャレンジだと思う。
佐倉市は、きっかけに、違う意味合いを持たせている。市民とのコミュニケーションでも考えるきっかけにした。国交省としては、事例をグリーンインフラを展開して、増やすフェーズ。今後は、一般化していくのか?

一丸:
グリーンインフラ推進戦略2023の中にもあったが、将来的には当たり前のように国民運動的に進めていきたい。新しく何かをしてもらうのではなく、これまで環境に配慮した取り組みはされてきているので、改めて、それがグリーンインフラだと気付いてもらう、称してもらう取り組みをしてもらうようお願いをしている。身構えず、ハードル低く、自分たちが今までやってきたことは、グリーンインフラだと気付いてほしい。

内田:
そこにさらに工夫を加えていく。
民間企業の方々も、地域でやっているやり方が全国的にみたら特殊で、取り組みとしては注目されるものが各地にあるのではないか? 認定を目指して、手法を確立していくために自治体と組んでいく取り組みの可能性があると思う。

テーマ2:対外的な連携をどう進めていくか?

内田:
ここまで庁内連携を聞いてきたが、対外的な関係者との連携について聞きたい。続橋さんからあったように、内部でやっていたものを外に展開していくと、新たな課題が出てくることもある。生物多様性は、土地に紐づいているので、外に展開していくと違う現実がある。2030年ネイチャーポジティブの達成まで、7年もなく反転させていかなければならない。加速、スピード感が大事。対外的に巻き込んでいかなければならない。
佐倉市は、様々な方との連携は里山のロケーションを軸に展開しているのではないか? 他の自治体へのメッセージや、どこから始めたらいいかのアドバイスをいただきたい。

【地域のキーマンと出会う】

包國:
自分が外の人、団体と関わっている。いい民間は、いい民間と繋がっている。一人キーマンが見つかると芋づる式に繋がっていく。セミナーも、地域の環境活動も、竹刈りも、地域と繋がっているキーマンと出会える場。その人をきっかけに紹介し合うことで輪が広がっていく。まずキーマンに出会えるかどうか。出会える機会に自分で足を運ぶことが大事。私自身、公園緑地課は3年目。

内田:
行政は異動もあるので、輪を広げて次につなげるのが課題。

包國:
異動はつきもの。関係を個人ではなく、組織に落とし込みたい。そのための協議会の発足。ステークホルダーが集まる正式な場を用意する。行政が異動しても、民間は変わらない。協議会でレールを敷いていく。

【制度を理解してもらう】

内田:
佐倉市は人口17万人規模で、仙台は100万人規模だが、いかがか?
管理者等民間を巻き込むには、いかに体系的に、俗人的ではなく、組織として人脈を広げるということを意識するのが必要になってくると思うが。

川満:
これから森林所有者や農家に広げる時、地域の集団で管理している農家が多いので、制度を理解してもらい、メリットを実感してもらい、協力してもらうのが大事。これから手探りで始める。庁内で連携して、繋がりを生かしていけるかという点は、不安と楽しみと両方ある。

【都市で生物多様性を進める補助事業は?】

参加者1:
自然共生サイトやグリーンインフラという森林や緑地を大きくゾーニングするだけではなく、緑地を保全だけではなく、都市の中の小さな緑、住宅の敷地、庭に木を植えるような、都市計画を進める補助事業はあるのか?

一丸:
住宅の敷地レベルは、グリーンインフラと称していないが、緑を増やすものや宅地内の雨水を貯留する施設への補助はある。グリーンインフラとは称していないが、応援する補助はいくつかある。

内田:
自治体の景観法、まちづくり関係の条例などでもっている自治体さんもあるのではないか?

包國:
佐倉市は補助制度はないが緑化協定がある。自治会として、住んでいるところを緑化していこう、という協定を作り、ルールにしている。本来であれば、そこに市が助成していければ、さらに広がっていくと思うが、そこまで支援はだきていない。

川満:
仙台市では生垣補助金で費用の半分を市が助成する。ブロック塀を生垣にする時にブロック塀の撤去費用を負担する。町内単位での緑化助成。企業の都市緑化助成もある。

小久保:
小山市では生物多様性の地域戦略を改訂するにあたり、都市計画マスタープランとの整合性を取っている。計画の中で特別緑地保全地区を市街化区域の中にどう作っていくか。インフラに、生物多様性の工法をどう持ち込むか。都市整備部局と共にガイドラインを作っていくことで担保していく。

内田:
この分野は世界的に進んでいる。市街地でネイチャーポジティブをどう宣言するか、住宅街でできることのリストアップが注目されている。日本ではシンボルツリーを1本共有するとか、地下水・雨水を土に浸透させるために庭を講じる時に助成金を出すとかもある。生物多様性という観点で助成しているかどうかは整理が始まったところ。景観法で検索してみるとみつかる。

角野(環境省):
環境省ではインセンティブを検討している中、生物多様性自治体ネットワークの名古屋市の協力も得ながら、生物多様性に資するような補助金、税の優遇を調査して、公開を視野に入れているところ。

内田:
インセンティブ検討委員会が肝になっている。

【海岸・海の取組は?】

会場2:
生物多様性保全ということを考えると、海岸の人工護岸周りはどのように取り組めば良いか?

内田:
生物多様性の話をする際、海の話が抜けがち。グリーンインフラとしての護岸整備は、どういう施工が望ましいか、どういうプロセスが良いかなどあるか?

一丸:
港湾局などが生物多様性を意識した施工をしている。最近は藻場の整備、生態系を意識した取り組みを進めている。

内田:
護岸整備だけでなく、河川・干潟の管理など総合的に考えていかないと、この形式が良い、と言えない。
今、気候変動により台風が大型化し、海面上昇で護岸が侵食されているが、いかに守るか。従来型のコンクリートで固めるのは良くないので、やり方を工夫していく動きがある。

【パネリストからまとめのコメント】

お互いの質問で深まったと思う。皆様から今後の取り組み、意気込み、考えを一言ずついただきたい。

松永:
自治体の先進的な事例を聞けた。それぞれ自然共生サイトに触れらえていて、関心の高さが伺えた。30by30達成のためにやっているだけではなく、地域の保全活動のツールとして使ってもらっている印象を受けた。目標、KPIを達成するためにと囚われすぎてしまいがちだが、プロセスを楽しみ、試行錯誤しながら、楽しみとしてやっていく。地域の方々と信頼関係を築いていくのが連携のポイントだと感じた。

続橋:
自治体の発表を聞いて、先進的な取組を勉強できた。廃掃法の課題だけではなく、ネイチャーポジティブという非常に野心的な目標を達成するためには、農水省だけでは力不足。環境省・国交省・民間・自治体と連携していきたい。農水省の施策で要望等があれば、連絡をいただきたい。

一丸:
今回のテーマは庁内連携。佐倉市ではきっかけを作って、取り組まざるを得ない状況を作って、始める。すぐにやれるところからやる。スモールスタートが大事だと思う。グリーンインフラについて何かあれば問合せを。

包國:
小山市の組織的な企画部門は勉強になった。仙台市のようなOECM認定を目指していきたい。課題は多いので相談させてほしい。

小久保:
先日、福岡から人を招いて話を聞いた。景色・風景を守るのは、暮らす人の暮らしの舞台を守ること。風景を守りネイチャーポジティブに向けたチャレンジの数を増やしていくためには、行政は間違えてはいけないという性質を突破して、スモールスタートと、トライアル&エラーが有効だと思う。活動を持続させるために色々なセクターが連携するためのヒントをもらった。小山市の取り組みの整理もできた。

川満:
農水省・国交省でも、生物多様性が大きく位置付けられていた。佐倉市・小山市では、インフラの活用・整備の中で自然共生サイトの今後の申請をやっていくということで、かなり心強い。理念だけで動いているが、インフラを持っているところがやっていると聞くと、心強い。励みに庁内連携をより進めていきたい。

内田:
生物多様性もゼロカーボンも、社会的な変革をしていかなければならないということが、ここ数年社会に広く浸透してきた。日本の社会は、動きがない・変化が少ないと形容される。本日の話を聞いて、色々なところで、国のレベル・自治体のレベルで、いろいろな試し、新しい取り組みが始まっていることを実感できた。スモールスタートでたくさん実施していくのが大事、という発言もあった。今の取り組みをより広く展開していけば、将来的には課題も出てくる。まだにフロンティアとして、新しい取り組みをされている。民間企業も自治体もそういう理解の下で推進してほしい。大きな目標であるネイチャーポジティブ、ゼロカーボンに推進していく力になっていければ。

星野:
ありがとうございました。地域連携、分野横断の連携が進むことを期待している。