2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF) 第二回地域連携フォーラム【開催報告】
開催日時 | 2023年2月16日(木)10:00~12:00 |
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会場 | オンライン(WebEX) |
参加者 | 135名 |
生物多様性条約第15回締約国会議、COP15において「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されたことや今後次期生物多様性国家戦略が策定されることも踏まえ、生物多様性の主流化に向け地域で取り組んでいくべき事について、情報共有と意見交換を行いました。
オンライン開催の模様は、こちらの環境省YouTubeチャンネルでご覧いただけます。
ぜひ、ご視聴ください。
開会挨拶
環境省 自然環境局 自然環境計画課長 堀上 勝氏
- 昨年12月、COP15がモントリオールで開催された。新たな世界枠組が決まり、2030年までに自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させるために緊急の行動を取る、いわゆるネイチャーポジティブの実現のため、23の個別目標が定められた。
- この実現に向け、生物多様性国家戦略の改定作業を急いでいる。その上で、国内の各地域での様々な取組が急がれる。自治体をはじめ企業の皆様の地域での連携が重要になっている
- 本日のフォーラムが活発な議論のもとに有意義な会となり、生物多様性の主流化に向けた具体的な取組につながることを願っている。
名古屋市 環境局長 小林 靖弘氏(生物多様性自治体ネットワーク代表都市)
- 生物多様性自治体ネットワークは、2010年に愛知県名古屋市で開催されたCOP10で採択された愛知目標の実現に向け、2011年に自治体間のプラットフォームとして設立された。
- 本ネットワークとしても新たな世界目標や国家戦略に対応すべく、令和4年度は広報普及啓発部会において、自治体の実務担当者がそれぞれの取組や今後の方策について意見交換を活発に行ってきた。
- 本フォーラムの開催が新たな交流や気づきのきっかけとなり、人々の生活や事業活動に、生物多様性の配慮が当たり前に取り入れられる、いわゆる生物多様性の主流化に向けた着実な一歩になることを願っている。
趣旨説明
環境省 生物多様性主流化室長 浜島 直子氏
- J-GBFは前進のUNDB-Jを引き継ぎ、2021年の11月に立ち上がったが、コロナの影響でCOP15の開催が延期されていたので、それを待って改めて本格始動した。地域連携フォーラムも昨年度末に第一回を開催し、本日が第二回の開催となる。
- COP15では自治体や地域の議論もなされたので、最初にイクレイ日本の内田様よりご報告をいただく。
- 現在政府で生物多様性国家戦略改定作業中で、環境省では地域戦略の手引きを改定中。今回の改定のポイントとして、企業との連携がしやすくなるような方向で改定を目指していることをご紹介する。
- 香坂先生からは、行動計画の指標についてお話しいただく。その後、各自治体から地域戦略の具体的な実施、地域と企業、産業と持続可能な関係に資するという観点からプレゼンをしていただく。
- 各地域をずっと住んでいきたい町にするための地域作りに役立てていただきたい。
第一部 発表
「COP15で合意された自治体関連の目標と行動計画について」/イクレイ日本 事務局長 内田 東吾氏
- イクレイ-持続可能な都市と地域をめざす自治体協議会は、世界中の2500以上、日本では24の自治体が会員となって活動している。
- 生物多様性条約に対する自治体の基本的スタンスは、締約国は課題解決のために自治体の果たす役割と可能性は大きいということを認識し、自治体との協働にむけた支援を強化すべきであるということ。COP15でも公式サイドイベントとして、200人以上の首長級が出席し、70か国、300以上の自治体、1500人以上が参加して「第7回自治体サミット」を開催し、自治体の役割を主張した。
- 条約交渉の成果として、新しい国際枠組みの目的部分に、政府のみならず、「准国家及び地方政府」という言葉を入れ、政府と地方政府が一丸となってやっていくことが認められた。枠組みの実施についての考慮事項でも「全政府的」、地方政府も含めたあらゆるレベルの政府で行動していくことが入った。
- ターゲットの中で、特に12は初めて自治体を対象とした目標となっている。都市部と人口密集地域の緑地空間及び親水空間の面積と質を増やしていこうという目標。
- COP15では「昆明・モントリオール枠組みの実施を強化するための自治体とのエンゲージメント」、生物多様性のための自治体に関する行動計画(PoA)が合意された。条約の実施責任は締約国にあるが、自治体の関与を促進することが重要であるという認識が共有、合意され、自治体の関与に関して具体的な記述が増えている。行動計画・目標の中でも、国家戦略の中で自治体の関与を拡大するとか、生物多様性への配慮を都市・地域計画や開発に組み込むことを推奨する、そのために国がどのような支援をするかということも書かれている。行動領域については7つあり、その6で「都市の生物多様性に関するシンガポール指標」の利用を呼びかけている。
- こういった取り組みを意識して自治体の行動計画を作っていけば、しっかりと国の目標への貢献、国際貢献ができると思っている。
「行動計画の指標について-COP15の議論と都市と生物多様性指標から」/東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授 香坂 玲氏
- 生物多様性条約は3つの目標がある。生物多様性保全→持続可能な利用→利益配分、この3つを回していく、PDCAサイクルに近い、守って使ってその利益を上手く回して、もっとやりやすくするという仕組み。今回、愛知目標から、昆明・モントリオール目標に変わっているが、COPはこのサイクルが上手くいっているかをチェックする仕組み。
- 今回、都市の目標が12に入り、30by30が入り、その中で企業や自治体の連携が大事になってきて、自然共生サイトも注目されている。
- 自治体でPDCAを回そうとしたとき、都市に特化した指標が必要ということで、シンガポールが作り全世界的に広がってきている。日本では国交省の簡易な指標をあてはめることで多くの取組が進んでいる。
- シンガポール指標には、大きく3つの柱がある。生態系・ハビタットの多様性、生態系サービス、都市の取組、これが骨格。努力では変えられないところもある。熱帯地域と温帯地域、砂漠とは比較できないが、取り組み自体は頑張ればできる。生態系サービスのはかり方や定義が難しいという指摘もあったが、自己点検しながらできるようにしたり、健康に関する指標が足されて、28の指標ができている。
- その指標がなにを表しているのかというときに、要因(Driver)、負荷(Pressure)、状態(State)、影響(Impact)、土地利用の変化だとか、何がそれを引き起こしているのかを見て、対策(Response)をどうするかというフレームワークがDPSIR。指標の役割は、変化の関係性を理解する。今どうなのか、どういう方向に努力すればいいのかを特定する基盤になる。ただ生物多様性の場合は、時間と空間にもそれが依存することを押さえおくべき。
- DPSIR自体は変化の要因を論理的に因果関係を結び付けられる、科学と政策が結び付けられるという点が、EUはじめ多くの国が取り入れている理由。企業はこういうものを取り入れて指標を作ったり、TNFDで使っていこうとしているが、どういう方向に改善していったらいいのかを見える化することに肝があることを理解して欲しい。
「次期生物多様性国家戦略(案)、地域戦略について」/環境省 自然環境局 生物多様性戦略推進室 室長補佐 坂本 朋美氏
- 現在策定中の次期国家戦略は、新たな世界目標に対応しており、2030年ネイチャーポジティブを目指し、生物多様性、自然資本を守り活用するための戦略となっている。ポイントとしては、生物多様性損失と気候危機という二つの危機への統合的対応、社会の根本的変革の重要性を強調している。30by30の達成により、健全な生態系を取り戻し、自然資本を守り活かす社会経済活動の推進を掲げている。
- 戦略の骨格としては新枠組に対応し、5つの基本戦略を掲げ、それごとにあるべき状態の状態目標と取るべき行動の行動目標を設定している。第二部は関係省庁の具体的施策を行動目標ごとに整理している。
- 生物多様性の保全は地域での取組が非常に重要であり、それを担う地方公共団体、民間企業、団体の役割が大きくなる。自治体では次期国家戦略を踏まえ、地域の実情に応じた地域目標等を策定いただき、それを踏まえて地域の企業や団体と連携して様々な活動を進めていただきたい。
- 改定中の地域戦略の手引きのポイントとしては、国家目標や国際目標を掲げられても、地域の方たちは何をしたらいいのかわからないので、地域目標等を設定していただく。そのひな形も手引きに盛り込む。また地域戦略を単独で策定するのではなく、他の環境基本計画や総合計画などとの連携強化、総合的な作成、複数の自治体による地域戦略の共同策定も推奨している。手引き改定は、令和5年度の早期に公表することを目指している。
「生物多様性なごや戦略実行計画 2030 について」/名古屋市環境局 環境企画部 主幹 森 匡司氏
- 名古屋市はCOP15に副市長はじめ4名が参加した。一番の目的は、第7回生物多様性自治体会議への参加、その他サイドイベント、他都市との意見交換をしてきた。名古屋市はCOP10開催地であるので、開催以降の成果、そして自治体ネットワークの代表都市として取組の紹介をした。今回初めて自治体パビリオンが設けられ、チャイナデーに愛知県、名古屋市、佐渡市が発表を行った。
- 名古屋市の生物多様性地域戦略は、2010年に2050年までの長期戦略を策定している。これが法に基づく地域戦略。短期、中期的なものは環境基本計画の中で位置づけている。新しい世界目標、国家戦略ができるので、具体的な2030年までの実行計画を今年の9月までに策定する予定。2030年までの重点方針として、まちづくり、社会変革、ひとづくり、拠点・ネットワークの強化の4つ掲げている。
- 自然共生サイトに向けての取組も考えている。生態系として重要な場所がどこか、申請できる場所はどこかを洗い出し、地図化して公表する。認定ヵ所数を数値目標として設定する予定。
- 内田氏、香坂先生が発表された、都市と生物多様性指標を使っていきたい。日本では国土交通省が簡易版を策定しているので、これを活用してやっていきたい。現在できていないこともあるので、それらを向上できるようにしていきたい。
「あいち生物多様性企業認証制度について」/愛知県環境局 環境政策部 自然環境課長 杉本 安信氏
- COP15、第7回生物多様性国際自治体会議に参加してきた。この会議の中で、全ての主体の参加と共同、行政間・行政内の連携が議論された。企業との連携がかかせないという印象を受けた。愛知県では2016年に「愛知目標達成に向けた国際先進広域自治体連合、GoLS」という組織を立ち上げて活動してきたが、今回「世界目標達成に向けた国際先進広域自治体連合」に名称を変更して再出発した。また、いくつかのサイドイベントで、今年度創出した「愛知生物多様性企業認証制度」を発表した。
- 2021年に策定した「あいち生物多様性戦略2030」では重点プロジェクトの中に事業者の保全活動の推進を位置づけており、この認証制度の対象は愛知県内に本社、事業所を置いている企業となる。
- 評価項目は、組織の方針・体制、まもる、つなげる、つかう、ひろめるという区分で、企業に実施して欲しい50程の項目を明記しており、取り組みをしているかどうかを点数評価している。昨年11月に認証式を開催し、優良認証企業15社、認証企業25社に認定書を授与した。認証後は毎年5月末までに取組状況報告書を提出、5年ごとに更新手続きが必要となる。
- 制度創出後の企業等の声として、TNFDの開示でエビデンス等として活用できる、モチベーションが向上する、取組が見える化され社内で継続しやすい環境になった、というような声をいただいている。
- 最後に、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブの3つを合わせた経営の重要性が高まっている。愛知県の重要な施策なので、企業の皆さんと一緒に進めていきたい。
「自然資源を活用した佐渡の農業政策について」/佐渡市農林水産部 副部長 中川 克典氏、農業政策課トキ・里山振興係主事 五十嵐 麻湖氏
- COP15で佐渡市はサイエンスのフォーラム、イクレイの自治体チャイナデー、ユースの皆さんに佐渡市の取組を発表した。地域の自然資本と共生した社会の中で経済性が生まれている点が高く評価された。
- 佐渡の里山では2008年に10羽のトキが放鳥され、現在では500羽以上が佐渡の空を舞っている。トキの自然界での個体数の推移は、ネイチャーポジティブで提唱するベンディングカーブを示している。
- 市独自の「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」を設け、消費者からも応援してもらっている。販売金額1kgに対して1円の寄付をいただき、募金総額は3000万円となった。米の消費量が落ち込む中、ここ3年間は年間300万円を超え、消費者の方の理解がより深まっている。
- 佐渡市では昨年10月、ネイチャーポジティブ宣言を行った。ゼロカーボンアイランドの推進とともに、自然環境への投資や循環型経済の推進に取り組みたい。また、地域循環共生圏の創出に向けたプラットフォーム機能として、産官学の連携により佐渡島自然共生ラボを立ち上げ活動している。
- 保育園と学校給食への有機食材の提供を試験的に導入開始した。合わせて食育、環境教育に取り組むことで、生物多様性育む豊かな自然や農村文化に理解を深めてもらい、農家の皆さんがどんな思いでつくっているか、お米を食べることで田んぼが守られ、生物多様性、地域が守られることを理解してもらうようにする。生き物目線の佐渡だからできることを今後も挑戦していきたい。
グループディスカッション
- テーマ① 生物多様性地域戦略における自然共生サイト
進行:イクレイ日本 内田 東吾氏
第1部 登壇者:名古屋市 森 匡司氏 - テーマ② 認証制度を活用した地域と企業の連携
進行:環境省自然環境局 生物多様性戦略推進室 角野 匠氏
第1部 登壇者:愛知県 杉本 安信氏、大越 士生氏 - テーマ③ 持続可能な地域と産業(農業)に向けて
進行:環境パートナーシップ会議 伊藤 隆博氏
第1部 登壇者:佐渡市 中川 克典氏、五十嵐 麻湖氏
3つのテーマに分かれて、登壇者と参加者によるディスカッションを実施した。
グループディスカッションの報告
テーマ① 生物多様性地域戦略における自然共生サイト
イクレイ日本 事務局長 内田 東吾氏
- まず企業が自然共生サイトの認定を受ける際のボトルネック、ハードルについての話があった。企業が持っている緑地の価値がわからない場合は自治体や国に問い合わせ、相談する。同時に環境省や自治体から重要な場所、ホットスポットを示して、企業側にアプローチする事例もあるだろう。
- インセンティブについて、自然共生サイトを維持管理していくお金がかかるので対策が必要ではないか。例えば固定資産税の免税措置や企業版ふるさと納税など。インセンティブについては国で検討しており、2026年までにインセンティブも含めて制度の整備を進めていく予定とのこと。
- モニタリングについては大変なので、環境DNAを活用したり、既に活動しているNPOの情報、専門性を活用していったらいいという話があった。
- また陸地はイメージつくが、海域については試行サイトでも1つだけということで、情報提供してもらった。
テーマ② 認証制度を活用した地域と企業の連携
環境省自然環境局 生物多様性戦略推進室 角野 匠氏
- 愛知県の認定制度については、既に実施されている滋賀県の制度を参考にして、工業県であるという地域の特徴があるので、企業に絞った独自の認証制度を作ったという補足説明があった。
- 印象に残った感心した点として、金融機関も認証されていて、開発を行う原資は金融機関から来ているので、今後、金融機関も生物多様性の取組に入っていくことが大事ということ。
- この認証制度を広げていくためには、企業としては何をやったらいいかわからないということもあるので、県が真ん中に入って、地域にどういう課題があって、企業がどう解決できるのかを示して、企業と地域の橋渡しを県がやっていくという点が印象的だった。
テーマ③ 持続可能な地域と産業(農業)に向けて
環境パートナーシップ会議 伊藤 隆博氏
- 佐渡市から課題として、担い手不足と消費者の意識があげられた。
- 担い手不足の対策としてはスマート農業、草刈りロボットを活用したり、新規就農についてJAが地域興し協力隊のようなスキームで若者を受け入れ、農業に向かなかったら農協職員になる取組などしている。ユースの体験にも力をいれていて、高校生が授業とは別に関われる仕組みづくりを行っている。
- 消費者意識について、例えばカメムシによる斑点がクレームとなるために農薬を使ってしまうなどがあり、理解してもらうことが大事なので、首都圏のお米屋さんで認証米の説明をしたりしている。それがきっかけで世田谷の小学校に通年でお米を供給するようになった。
- 今後重要なことは、教育、消費者意識の改善をやっていきたいとのこと。