2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF) 第一回ビジネスフォーラム【開催報告】

第一回ビジネスフォーラムの会場からの出席者による集合写真です。
開催日時 2022年3月14日(月)14:00~16:00
会場 会場(赤坂サンスカイルーム3D)およびZoomウェビナーによる配信
主催 2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)
参加者 275名(会場:35名、オンライン:240名)

2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)は、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)を始めとする生物多様性における国際動向や、国内での取組の共有、連携・協力を図るために、第一回ビジネスフォーラムを開催しました。TNFD、OECM、GBFなどの話題を中心に最新の動向について共有し、本フォーラムのキックオフとして、広く参加者への理解醸成を図りました。


開会あいさつ

環境省 環境事務次官 中井 徳太郎氏

  • ポスト2020生物多様性枠組(GBF)、次期生物多様性国家戦略、30by30の議論が進んでおり、生物多様性の分野における重要な局面を迎えている。
  • ビジネス、気候変動、パンデミック等と生物多様性との相互連関を図る動きが、国際的に活発になっている。特に、TNFD等ビジネスセクターにおける情報開示は、GBFのターゲット案やESG投資の高まりを受け、大きく動いている。
  • 本日の会がネイチャーポジティブに向けた経済や経営の後押しにつながることを祈念する。
開会の挨拶をしている、環境省環境事務次官の中井徳太郎氏の画像です。

経団連自然保護協議会 副会長 椋田 哲史氏

  • 生態系サービス、生物多様性は事業活動の基盤であり、生物多様性に十分配慮した事業活動をしていかなければ、事業の継続的な発展はもちろん、持続可能な社会の実現に貢献することができない。
  • 経済三団体を中心とした様々な関係者が集い、ビジネス分野での生物多様性に関する情報共有や議論を行う場として、第一回のビジネスフォーラムが開催されることは大きな意義がある。
  • 本フォーラムを通じて、それぞれが一層の行動変容につなげられていくことを心より期待している。
開会の挨拶をしている、経団連自然保護協議会副会長の椋田哲史氏の画像です。

第一部 基調講演

生物多様性と新型コロナ/国立環境研究所 生態リスク評価・対策研究室 室長 五箇 公一氏

  • 生物多様性は、人間が生きていく上での生命の必須基盤として重要であると同時に、社会や文化の多様性を生み出す基盤としても重要である。自然生態系ピラミッドのトップに人間が立ち、下の生き物たちの取り分を減らし、数を減らしている。これが生物多様性の劣化。さらに太陽光エネルギーだけでは足りず、化石燃料を掘り出して物質生産に充当した。結果、起こっている温暖化も環境汚染も生物多様性の劣化も三位一体で、原因はわれわれ人間による大量消費と大量廃棄。
  • 新興感染症ウイルスは次から次へ人間社会を襲ってくるが、この現象自体は人間が生物多様性を侵食した結果、起こるべくして起こった自然の摂理であるということを理解する必要がある。人と動物が適正な距離をとることが、感染症のリスク管理も含めてこれから重要になってくる。
  • ローカリゼーションと持続的社会へのパラダイムシフトで、私たちが取るべきライフスタイルは地産地消。地域にある資源やエネルギーを地域レベルで循環して持続させる社会をつくる。今こそ社会変容のチャンスだと捉えるべきであり、自立した社会、国、地域同士が協調しあう、健全なグローバル化に向かわせることが、人類が本気で生き残る上での重要な課題となってくる。
生物多様性と新型コロナウイルス感染症について講演をした、国立環境研究所生態リスク評価・対策研究室室長の五箇公一氏の画像です。

生物多様性・自然資本経営に向けた環境省の取組/環境省 生物多様性主流化室 室長 谷貝 雄三氏

  • カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、それに加えてネイチャーポジティブ。この3つがお互い関わって、重なり合っていることを認識していただきたい。
  • 環境省としては、30by30に向けたOECMの認定制度やガイドライン、体制構築を進めている。ISOの国内審議委員会、国際的な動きが速いので、そこに対応する国内の体制をつくっている。
  • 企業の方は気候変動、人権、人的資本があり、自然資本まで手が回らないと思うが、一体的にやっていただいた方がいい。役所に任せていてはダメ。ぜひ、国際的なルールメイクに関与していってほしい。
生物多様性・自然資本経営に向けた環境省の取組について講演をした、環境省生物多様性主流化室室長の谷貝雄三氏の画像です。

TNFDが目指すもの/TNFDタスクフォースメンバー、MS&ADグループ 原口 真氏

  • 今回出る「自然関連リスクの管理および開示フレームワークに関するβ版」は開示勧告ではない。正式版は、2023年9月に公開予定。β版のパイロットテストはアカウント登録すれば、誰でも見ること、使うことができる。
  • TNFDが掲げている使命は2つ。リスクマネジメントと開示のための枠組をつくる。もうひとつは、世界のお金の流れをネイチャーポジティブに変えていくということ。
  • TNFDでは、企業に多大な負荷がかからずに、どう必要な開示をするかという視点で議論している。TNFDは基本的にTCFDの4本柱の枠組を踏襲しているので、大きな枠組は理解しやすいのではないかと思う。
  • 個人的にお伝えしたいのは、自然と気候は同時に達成しなければならないということ。自然関連の課題は常に場所に紐付いている。そこが気候とは違い分かりやすくもあり、難しい点でもある。今後、企業は自分たちが事業が関連する場所の情報を読み解き、それをグローバルな目で整理、分析して、情報開示もしくはリスク管理をしていく人材を社内に増やしていかなければならない。
  • われわれのビジネスは毎年、自然が生み出すフロー以上に自然の恵みを使って、ストックである自然資本を削り取っている。資本欠損状態、会社経営でいうと赤字経営。このまま行くと倒産してしまう。これからの企業経営は自社も黒字化しながら、自然の恵みも黒字化していくというのがネイチャーポジティブの経営だと思う。
TNFDが目指すものについて講演をした、TNFDタスクフォースメンバー、MS&ADグループの原口真氏の画像です。

第二部 パネルディスカッション
ネイチャーポジティブ・30 by 30実現に向けたビジネスの役割

パネリスト

  • 環境省 自然環境局 自然環境計画課 生物多様性主流化室 室長 谷貝 雄三氏
  • TNFDタスクフォースメンバー、MS&ADグループ 原口 真氏
  • 経団連自然保護協議会事務局長 長谷川 雅巳氏
  • 金融庁総合政策局総務課国際室 課長補佐 髙橋 沙織氏
  • 国立環境研究所 生態リスク評価・対策研究室 室長 五箇 公一氏

コーディネーター

  • 一般社団法人 環境パートナーシップ会議 星野 智子氏
ネイチャーポジティブ・30 by 30実現に向けたビジネスの役割をテーマしたパネルディスカッションの画像です。

経団連自然保護協議会事務局長 長谷川 雅巳氏

経団連自然保護協議会では、「経団連生物多様性宣言」に賛同する企業を募り「イニシアチブ」という形でとりまとめている。この宣言では、脱炭素、循環型社会形成、生物多様性保全に統合的に取り組む「環境統合型経営」の推進をうたっている。

ネイチャーポジティブ・30 by 30実現に向けたビジネスの役割をテーマしたパネルディスカッションで発言をしている経団連自然保護協議会事務局長の長谷川雅巳氏の画像です。

金融庁総合政策局総務課国際室 課長補佐 髙橋 沙織氏

金融庁は、Network for Greening the Financial System(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)という、金融当局と中央銀行の国際的な自主的な集まりに参加している。昨年からそのネットワークの中で、生物多様性と金融リスクの関わりについてスタディを始めている。

ネイチャーポジティブ・30 by 30実現に向けたビジネスの役割をテーマしたパネルディスカッションで発言をしている金融庁総合政策局総務課国際室課長補佐の髙橋沙織氏の画像です。

ディスカッション・テーマ1
「ネイチャーポジティブ(世界での生物多様性損失傾向の反転)・30 by 30(国内外の陸域・海域の30%保護・保全)の実現のために、産業界・金融界はどういった役割・取組を担うべきか。」

谷貝氏:
企業・産業界、金融界の両方に求めたいのは、国際的なルールメイキングにどんどん参画していただきたい。国としては人権や脱炭素など多様なルールについて、各省と連携して統合していきたい。

原口氏:
ポスト2020目標ができ、各国、各自治体レベルで、どこまで自然を回復させるか目標ができれば、自社と関係が深い地域と事業で、どれだけ貢献し黒字化させるという戦略が建てやすいのではないか。

長谷川氏:
生物多様性は、計測が困難で指標の設定が難しいことや、地域ごとに課題が異なるという点を克服しながら、企業が取り組みやすい環境整備、分かりやすい枠組みをつくっていくことが重要。

髙橋氏:
国際的な議論の場でも、操業地域の業種により自然資本に与えるインパクトが異なるといった、地域性や特殊性が指摘されている。金融業における一般的な概念だが、これらの要素を踏まえた目利き力が金融機関にとってポイントになるのではないか。

五箇氏:
まず、企業は従業員に生物多様性を理解させられるか。世界レベルで保全していかなければならないが、やることは地域で異なる。企業も関わる地域によって変わってくるという視点を持つことが重要。

ディスカッション・テーマ2
「気候変動、パンデミック等の社会の諸課題に対して、生物多様性の観点からどのように統合的解決につなげるか。そのために必要な要素は何か。」

谷貝氏:
企業にとっては指標が一番大事だと思うが、同時に自分たちの事業が自然資本のみならず、脱炭素、人権、平和、ジェンダーにどうつながっているかというストーリーを作っていただきたい。大きなストーリーを描きつつ、具体的な取組をしっかりやっていくというのが日本企業の強みだと思う。

原口氏:
バリューチェーン全体で諸課題を捉えていくことが重要。日本はデューデリに取り組まない企業もまだ多く、フリーライドできてしまう。投資家が上場企業を評価しても、非上場で大きなビジネスをやっているところは、グレーなものを買って安く売る。そこの補助金とか法律を見直していただきたい。

長谷川氏:
事業者が採れるアクションはひとつなので、気候変動、コロナ対策、生物多様性のすべてを踏まえた統合的対応の判断を現場では迫られている。こうした中、統合的対応の促進のために考えられるとすれば、制度枠組みをつくる側で統合する必要がある。例えば、情報開示については、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)で議論も進められており、TNFDやTCFDの動きも統合された形で、サステナビリティの情報開示の枠組みをつくっていただきたいと思う。

髙橋氏:
これまでの皆様の地域性に関するお話をお伺いしていると、グローバルサプライチェーンの中で活動されている企業と、日本の国内の資源、自然資本を使いながら活動されている企業とでは直面する状況も違うだろう。国内で操業する企業や事業者に対しては、大きな金融機関のみならず、地域金融機関が活躍するフィールドになるのではないか。

五箇氏:
日本本来の自然はサステナブルで頑強だったが、グローバル化の流れの中でモノトーン化し、そこにすむ生き物たちが脆弱化し日本固有性が失われた。いかにローカリティを重視した形で活動していくかが重要になってくる。
自然環境や生物多様性を往々にして美化して守るもの、保全と言う形で捉えるが、むしろ先に滅びるのは人間である可能性が非常に高い。人間は多様性がないと確実に滅んでしまう。生産性とは創造性であると言うことを人間社会として、あるいは企業としても捉え直すことが大事だ。

中井事務次官のコメント

  • ネイチャーポジティブ、生物多様性からの文脈は、うまくすれば、日本の企業が地域特性で世界に打って出られる分野だと思う。
  • 私たちがいるこの場所・空間で、生物との折り合いをつけ、エネルギー、食、観光資源、空気、水、自分の体も自然そのものであるということ。こういうもので生存可能性を高めることが経済であり、金融というのは地球の血流、お金が回る動きがビジネス。ビジネス的な発想で、自然資本が高まるような良い案件をポジティブにどんどん見せることも必要だと思う。ボトムアップ型で、一つ一つの細胞、生き物感覚で、日本の良さを官民一緒になって進めていきたいと実感した。
ネイチャーポジティブ・30 by 30実現に向けたビジネスの役割をテーマしたパネルディスカッションで発言をしている中井事務次官の画像です。

閉会あいさつ

環境省 自然環境局長 奥田 直久氏

  • 印象に残ったのは、黒字化するのは、ビジネス、経営者として得意分野、自然資本をいかに黒字化していくか。もう一つは、皆さんからご指摘があった地域性の問題。グローカルな考え方で物事を整理して取り組む、地域循環共生圏という考え方に立ち戻ると、今、ビジネスと一緒に何をしていくべきかが見えてくるのではないかという印象を持った。
  • TNFDのβ版を期待して待ちながら、総合的な取組、気候変動も資源循環も全てまとめた形で何ができるのかを皆さま方と一緒に考えていきたいと思う。
閉会の挨拶をしている、環境省自然環境局長の奥田直久氏の画像です。
第一部の基調講演にて、原口真氏の講演を拝聴する会場の様子を写した画像です。
第二部のパネルディスカッションを拝聴する会場の様子を写した画像です。