福島大学(食農学類) 『福島大学金谷川キャンパス』
~カモシカが覗くキャンパスから。一人の学生の卒論から始まった、自然との共生に向けた取り組み~
「苦い教訓」が未来を守る約束になった
「先日もね、研究室からふと外を見たらカモシカがいたんですよ」
そう楽しそうに笑うのは、食農学類の藤野正也先生。日常会話の中に当たり前のように生き物の話が飛び交い、絶滅危惧種のキンランやオオムラサキがすぐそばで息づく福島大学金谷川キャンパス。でも、この豊かな自然を保全する仕組みができるまでには、ある「苦い教訓」がありました。
遡ること2004年、実験棟の建設の際、一部の教職員が気づいて見守っていたカタクリの群生地を知らずに埋め立ててしまうという悲しい出来事が起きたのです。その出来事をきっかけに、大学執行部とキャンパスを管理する施設課と生物に関わる研究を行っていた教員が何度も話し合いを重ね、キャンパスの一部を保全地域に指定する枠組みを構築しました。新センター(現食農学類棟)設置時に、樹液に昆虫の集まるクヌギの木に影響しないよう新築建物玄関のスロープの位置を検討するなど,丁寧な配慮は、この誠実な対話から生まれたものでした。
「自然のことだけど、結局やっぱり人間の話だよね」
藤野先生のその言葉には、自然を大切に想う人々の温かいまなざしと、未来への願いが込められています。
Photo:藤野正也
自然との共生に向けた新たな取り組み
豊かな自然に恵まれた金谷川キャンパスに2022年、一つの大きな転換点が訪れます。きっかけは、食農学類の1期生だった、ある学生の卒業論文でした。卒論のテーマは「福島大学金谷川キャンパスにおける自然管理体系」。
学生さんは、学生や教職員を対象にアンケート調査を行い、キャンパス内の自然の豊かさが関係者に認識されていない状況に愕然としました。そこで大学が設けている学長との対話の場を活かして、キャンパスの未来に向けた提言を伝えました。
「これまでに築いてきた自然を守るだけでなく、それを大学全体の価値としてもっと輝かせたい」──。
すぐには十分な予算や体制が追いつかないという壁を前にしながらも、まずは足元にある学内の仕組みを活かす形で、プロジェクトは一歩ずつ前へ進み始めることになります。
「すでに学内には素晴らしい保全の仕組みがありました。だからこそ、その仕組みを誰もが分かりやすい言葉と確かな書類に落とし込むことで、必ず社会へ発信できると確信して引き継いだんです」と藤野先生。
学生のひたむきな努力と、先生が培ってきた専門的な知見が重なり、2025年に「自然共生サイト」認定を達成しました。大学キャンパスの登録に向けた課題を考察した藤野先生の論文は、日本森林学会誌(2024年106巻3号)に掲載されています。
Photo:左から、塘忠顕、高田悠生、黒沢高秀
「自然の豊かさ」が紡ぎ出す、地域と大学をむすぶあたたかな恩返し
「ここにしかない豊かな自然を、大学に関わる全員の誇りにしたかったんです。今ではその想いが実り、キャンパス全体でネイチャーポジティブを推進する機運が高まっています」そう語る藤野先生の視線は、次の未来を見つめています。
「今後は、広大な敷地をより高いクオリティで維持・管理していくために、民間企業さんとの共創パートナーシップを深めていきたいと考えています。その代わり、自然共生サイトの申請書作成や希少種の管理方法などでお困りの企業や市民団体の方々がいれば、私たちのノウハウを活かして、お手伝いできます」
今後は、まずは大学のご近所さんや学生たち、そして駅前の住民、地元の小中学校へと、地域が大学を支える温かな力を広げていきたいですね。地方の大学だからこそ紡げる「人と地域の温かな循環」の可能性が、確かに伝わってきました。
Photo:藤野正也
ヒント:大学と地域のネイチャーポジティブに取り組む「共創パートナーシップ」
地方大学ならではの悩みである「広大な敷地の管理」をサポートすることで、地域のネイチャーポジティブに貢献し、緑地管理の手法や申請書作成サポートなどの助言を受けることができます。
キャンパスの環境保全に高い意識を持って取り組む大学、そして自発的に活動する学生たちとの出会いは、企業・団体の次世代を担う大きな財産になります。
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