この事例のポイント
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5年に及ぶ調査と対話を経て、地域と事業者が協力
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専門家による知見を集め、希少な生物種を守る湿地と生態系を復元
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地域と事業者の意志が、生態系の復元と発電を両立させた
5年に及ぶ丁寧な対話が、信頼の土台に
「四日市市(よっかいちし)は工業の街として発展してきた歴史がありますが、環境保全にはとりわけ真摯に取り組むことを重要視してきました。」(四日市市役所)
昔は棚田だった68ヘクタールもの土地は、バブル期の宅地開発が頓挫したのち、背丈を超える草木で荒れ放題となっていました。これをどう再生させるか、という課題と向き合う中で2012年、大規模なメガソーラー計画が持ち上がります。
「この事業を、街の未来に資するものに」という信念のもとで事業者との対話を積み重ね、三重県環境影響評価条例に基づくおよそ2年間に及ぶ環境影響評価(アセスメント)の実施へと歩みを進めます。
調査の結果からわかったことは、パネル設置予定地の一部に貴重な生態系が含まれることでした。
生態系を守りながら、土地の再生を実現できるよう、丁寧な対話が積み重ねられます。その結果、パネルの配置など様々な点で、事業性と生態系の保全を両立したより良いプランへの改善が続けられました。
「地域の自然環境に配慮してほしいという住民要望に対し、事業者は真摯に設計変更の対応を行ってきました。環境アセスメントを含む約5年間に及ぶ協議を経て、2019年に運転を開始しています。この慎重な合意形成のプロセスを経たからこそ、現在の円滑な事業運営に向けた信頼関係が築かれたと考えています。」(四日市市役所)
専門家との連携により、生態系を再生し湿地を復元
元々農地だった棚田は、アセス当時は荒廃しており生物の住みにくい環境でした。そのため、この場所の生態系を理想的な状態で残すためには過去の棚田地形を復元し、微生物まで含めた“生態系ピラミッド”と呼ばれる自然環境全体を再生する必要がありました。
棚田地形の復元にあたり、専門家や生態系の再生に知見のある老舗造園企業である庭樹園のアドバイスをもとに事業者側でも開発計画の変更を決断。「地域の理解や環境の保全なくして、この事業は成立しない」という思いから、自然環境の復元にかかる費用を見込んだ事業計画が策定され、そこに希少生物がいる一部のエリアの保存と、開発エリアにいた生物を移植するためのビオトープ(自然の生態系をコンパクトに再現した空間)の新設が盛り込まれました。
「ビオトープ作りは、単なる“緑化”ではありません。かつてこの地にあった“棚田”という生態系そのものを復元するために、重機を使うだけではなく、人の手で一つひとつ“あぜ”を作り直しました。また外部から資材を持ち込むのではなく、その土地の土と植物だけで8,000平米の湿地帯を復元した例は、全国にも類を見ません。」(庭樹園 太田氏)
現在、この地には希少種を含め、日本でも限られたエリアにしか生息できない生物が生息するようになりました。また、自然環境の復元後、地域住民も参加する形でビオトープの維持管理を継続しています。
当初は開発による環境への影響に不安を抱いていた地域の人々も、実際に湿地が復元され、生物が戻ってきたことを喜んでいるそうです。
次の世代へとつなぐ、新しい資産
再エネ事業が目指すもの、それは地域が持っている価値を次世代へ良い形で残すことでもあります。再生されたビオトープには、環境に配慮しながら事業者と地元住民による遊歩道が整備され、地元の中学生たちが生物と自然について学ぶほか、三重大学の研究フィールドとしても貴重な研究資源となっています。
四日市の事例では、「開発前よりも価値のある環境を創出しよう」という地域と事業者の思いが一つになり、丁寧な対話を重ねる中でその目的へと着実に近づいていきました。太陽の光で電力を生み出しながら、足元の小さな命も守り抜く。豊かな自然と次世代エネルギーの仕組みが共存する風景はこの先も続きます。
